地球・自然
2016.03.01

COP21で採択された『パリ協定』が意味するもの

オーエスラボ株式会社 代表取締役


-戦争や紛争の阻止こそが、地球温暖化対策における喫緊の課題-

 

2015年の11月末から12月初旬にかけて、フランスのパリで開催されたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、採択された「パリ協定」の批准条件は、批准国が55カ国以上、そして、批准国の温室効果ガス(GHG)総排出量が55%以上を占めることが、発効条件とされています。締約国の数は、195カ国にも及んでいます。
批准した国々は、2020年ないしは2030年までに国連に、それぞれの国の温室効果ガスの削減目標値を明らかにすることが求められています。ちなみに、日本は2030年までに2013年の排出実績量のマイナス26%を、目標に掲げています。また、日本の現在の「環境基本計画」(民主党政権時代に策定)には、2050年までに80%のGHG排出量削減を目指すことが、明記されています。

http://www.cop21.gouv.fr/en/

画像参照: http://www.cop21.gouv.fr/en/

「パリ協定」には、3つの特徴すべき取り決めがあります。一つは、申告した削減目標値は、5年ごとに見直し改善が求められること、二つ目は、途上国の気候変動対策費として2020年までに毎年1000億ドル(11兆円相当)の支援を行うことになっています。この支援は、2020年以降も継続されることが約束されています。3つ目は2050年までの気温上昇目標値として、産業革命前と比較してマイナス1.5℃にする努力目標が掲げられました。

 

世界の国々にとって優しくない協定が採択されましたが、実際に、この協定の効力が発行されるためには、55カ国の批准と同国々の合計GHG排出量が55%以上であることが条件となっています。1997年12月のCOP3で採択された「京都議定書」が、批准され発効要件に達したのは、7年後の2004年4月でした。今でも、思いだされますが、政府を始め企業が、GHG排出削減のための行動計画を策定し、活動を加速させたのは「京都議定書」が批准されてからであり、2008年の約束開始年に向けて、政府ならびに業界は大わらわだったことが記憶にあります。

 

周知の通り、当時は2007年にサブプライム問題が表面化し、2008年の「京都議定書」の開始年には、リーマンショックが起こり、急速に経済が冷え込んだ時期でもありました。日本は、その後、自民党政権から民主党政権へと、政治の舵が大きく切り替り、さらに2011年には3.11という未曽有の東日本大震災と福島第一原子力所の事故に見舞われ、社会情勢が激変した時期でもありました。
最終的には、日本は京都議定書で約束した1990年比マイナス6%は、京都メカニズムの活用などで、GHGの排出量削減目標をクリアしたと報告されています。

 

京都メカニズムとは、一つが当該国の森林被覆率を考慮し、森林による炭酸ガス吸収量が、GHGの削減枠として使うことが許されたこと、二つ目が途上国に省エネルギー技術を移転し、その結果削減できた炭酸ガス量(認証排出削減量:CER=Certified Emission Reductions)を買い取り、自国の削減目標量に組み入れられる仕組み、これをCDM(Clean Development Mechanism)と呼ばれていました。三つ目は、CDMの手法を先進国間でも行えるが仕組みで、これはJI(Joint Implementation)といい、自助努力で削減できなかった分を、CERで補うことが許されるというものです。

 

「パリ協定」の場合は、京都議定書のような悠長なやり方では、地球温暖化はますます厳しくなります。特に、日本は2030年には、2013年比でマイナス26%のGHGを削減しなければなりません。しかし、「パリ協定」には法的義務がないというではありませんか。現在の地球環境が置かれている状況を鑑みれば、京都議定書の場合とは比較にならないほどの取組み、強いコミットメントが各国に求められることは言うまでもありません。
いずれしても、批准条件の締約国55カ国の合意を取り付け、かつ批准国総体のGHG排出量が55%以上の条件を満足しなければ、発効要件が機能しないことになります。一日も早く、発行要件を満たすことを期待したいものです。

 

ところで、話はがらりと変わりますが、シリア情勢を始めとする中東における紛争は、地球温暖化の加速要因であると私は思っていますが、こうした戦争や紛争に伴い解き放たれるGHGのインベントリーは、把握できているでしょうか。明らかに、様々な武器の使用は、強いエネルギーの利用に匹敵すると考えます。戦闘機や戦車やミサイルの等の火器の使用に伴う、GHG排出量の制限(戦争、紛争阻止)について議論しても良いのではないでしょうか。テロ行為は、資源や自然環境ならびに生活環境の破壊行為と見ることができます。こうした視点に立って、世界は急ぎ戦争や紛争阻止の行為に乗り出すべきです。これこそ国連が行うべき義務であると、私は考えます。テロに屈しないで、COP21の開催をやり遂げたフランスには湛えられてしかるべきですが、戦争や紛争の阻止こそが、地球温暖化対策における喫緊の課題のように、私は考えます。

 

この記事の著者
谷 學

谷 學

オーエスラボ株式会社 代表取締役
環境事業支援コンサルタント・経営士・環境経営士。元グリーンブルー株式会社代表取締役。日本の公害対策の草創期より環境測定分析の技術者として、環境計量証明事業所の経営者として、環境汚染の改善及び業界の発展のために邁進。2007年には経済産業大臣より計量関係功労者表彰を、2013年には経営者「環境力」大賞を受彰。50年にわたる環境問題への取組み実績を持つオピニオンリーダー。

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