深刻なごみ問題の広がり
年明けから約3カ月間にわたって日本にも深刻な影響をもたらすと報じられ続けた大気汚染、ついに中国政府の文書にも「がん村」の言葉が登場して改めて注目を集めた水汚染など、 中国の環境汚染は多岐にわたり、どれも深刻です。
大気や水の汚染は、誰が見てもわかるほどひどいのも困りものですが、見かけだけでは深刻さがわからない場合もあります。 その点、素人目にもわかることがそのまま問題になる筆頭が、ごみ問題でしょう。
これも中国で深刻です。 中国のごみ問題は、長年、都市で出たごみが郊外に埋め立てられ、その山積ぶりは「ごみが都市を包囲する」という表現が生まれるほどになりました。 こうした状況は清掃工場の建設やリサイクル産業と回収ルートの確立などによって、近年、急速に改善したといわれています。
しかし、沿道や沿線、農村部に広く散乱しているごみを清掃するのは至難のわざに見えます。 ほかの環境問題の視察に訪れたはずの現場で、ごみの散乱ぶりがまず目につくこともめずらしくはありません。 村全体でかなり複雑なメカニズムの環境問題の被害を訴えているのに、その真ん中を流れる川が生活ごみだらけだったときには、村の人たちの環境意識に不思議さを感じたものでした。
(photo / http://www.toychan.net/archives/php)
筆者:ECOLOGライター(相川 泰)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年6月号)」より再編集して掲載しています。)
ごみの伝統とプラスチック類
中国の農村部で伝統的に使われてきたのは、捨てればそのまま土に返り、燃やしても害のないものでした。 燃えるものは燃料として熱源にし、燃えかすや燃えないものは屋外に捨てるだけで早晩、土(それも、生ごみなどはかなり肥沃な)に戻ったのです。
そうした感覚でごみを扱う人たちのところに、急にプラスチック類が、その燃焼の有害性や、難分解性の説明もなく、飲食品の便利な包装などとして入ってくれば、 当然のように、それまでの可燃物のように燃やされ、あるいはそのまま周囲にポイ捨てされます。
雲南エコネットが、せっかく設置されたバイオガス設備が活用されていないのを問題視するのも、ひとつはそれらが活用されないと、 伝統的な囲炉裏やかまどで、薪炭とともにプラスチック類なども燃やされるからです。
小中学校のごみ問題
雲南エコネットでは、地元である麗江市西郊の小学校や中学校で環境問題についての知識を広める環境教育、さらには一般的な科学知識の普及にも力を入れています。 そのために図書の寄付も、学校の先生が実施する環境問題についての授業の監督・アドバイスもしていて、学校現場も頻繁に訪問しているようです。
そうした中で雲南エコネットが発見し、頭を悩ませている問題が、学校のごみ処理です。 現地の小・中学校では、露天のコンクリートで囲っただけの焼却炉でごみを燃やして処理しています。
ごみを運び、燃やすのは、児童・生徒の仕事で、それも授業時間中のことだといいます。 本人たちは、好きでもない勉強から解放されると思って喜んでいることの方が多いようですが、本来は当然に教育を受ける権利がある時間帯にそれが妨げられることにもなるわけですし、安全な仕事でもありません。
出されるごみにもプラスチック類が混ざっていますし、担当の児童・生徒は燃え終わるまでその場にいないといけないそうですから、 それと知らずに有害なガスを吸い込んでいるのでしょう。 私にとって、今回の訪問で雲南エコネット代表から聞いたもっとも印象的な言葉は「できる限り被害者と被害の程度を減らしたい」というものでした。
実のところ、この学校の現場も含めて、雲南エコネットの活動対象や問題意識が向けられている状況は、数ある中国の環境問題の中では、それほど深刻とはいえない方だと思います。 それでも、この言葉からは「被害」が確実に存在し、何とか拡大を食い止めたいけれども、実際には簡単には解消できない切実さが感じられました。
鳥観で樹植えてごみ拾って
中国の環境NGOにとって、ごみ問題は早くからの取組み課題です。 中国の環境NGO活動に対しては「鳥観て樹植えてごみ拾って」という揶揄あるいは自嘲の言い回しもあるといいます。
中国で最初に環境NGOの担い手となった、都市部の知識人層にとって、これらはかなり物好きで進んでするのが奇異なことだったのです。 中国の環境NGOの活動内容は、すでにその3種類をはるかに上回る多様なものになっていますが、それら3種類も続けられ、なお必要とされています。
長らく中国の環境NGOは外国の環境NGOを見習って、ごみを拾って分別するとともに、それらのリサイクルを主張していましたけれども、 実のところ相応の回収ルートは存在していませんでした。
その後、地域によっては、確かに分別に意味があるような回収ルートが作られてきてもいるようです。 雲南エコネットも直接ごみを拾うこともあります。 しかし、彼らが普段、直面し提起し取り組んでいる問題はより切実です。