〜北九州市新門司工場への高効率廃棄物発電の導入とその実際〜
筆者:新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(弊社発行媒体「日中環境産業」(2013年11月号)より転載しています。)
まとめると
この記事は、新日鉄住金エンジニアリング株式会社が北九州市門司工場に所有する、最新の技術を導入した世界でも最大規模のガス化溶融施設の詳細とその実績について記述しています。
はじめに
新日鉄住金エンジニアリングのシャフト炉式ガス化溶融炉は、溶融機能付き施設として最多(受注41件)・最長(稼働年数32年)の実績を持ち、コークスによる高温溶融と安定稼働を実現している。
また石灰石による排ガス中腐食成分の低減等、高効率発電に適したプロセスであり、バイオマスを主体とする廃棄物で発電を行う地域分散型の安定電源として位置付けられる施設である。
北九州市新門司工場は、炉形式としてシャフト炉式ガス化溶融炉が採用され、昭和52年から30年間稼働した旧新門司工場の建替え施設として平成19年4月から稼働している。本施設では、排熱ボイラによる高温・高圧蒸気の回収および水冷式復水器の導入等により廃棄物発電の高効率化を図っている。
1、北九州市新門司工場の稼動実績
1.1 施設概要
北九州市新門司工場(240t/d×3炉)は、最新の技術を導入した世界でも最大規模のガス化溶融施設である。当社シャフト炉式ガス化溶融炉は、溶融炉上部からコークス・石灰石とともにごみを投入する。ごみは乾燥予熱帯(300~400°C)で水分が蒸発された後炉内を降下し、熱分解・ガス化帯(300〜1,000°C)で可燃分が熱分解・ガス化する。
発生した熱分解ガスは燃焼室で完全燃焼され、燃焼排ガスは排熱ボイラで熱回収された後、排ガス温度調節器で急冷される。その後、ろ過式集塵器で除塵された排ガスは触媒反応塔を通過し、最終的に煙突から放散される。熱分解後に残った不燃分は、コークスとともに燃焼帯(1,000〜1,700°C)、溶融帯(1,700〜1,800°C)へと降下する。コークスは炉下部に 設置した羽口(送風管)から供給される空気および酸素により燃焼され、高温の溶融帯を形成し灰分は完全に溶融される。溶融物は適度な流動性を保ちつつ、炉底部出湯口から水槽に排出・急冷されることで粒状のスラグとメタル(鉄分)となり磁選機で分離回収後各々有効利用される。
1.2 廃棄物発電の高効率化実績
本施設は以下に示す発電効率向上策を組み合わせることにより、高効率発電の交付要件である当該施設規模の発電効率21%を超える発電効率を達成している。
(1)水冷式復水器の採用
廃棄物発電施設では、その立地条件等から空冷式復水器が採用されることが一般的であ る。しかし、本施設においては、蒸気条件400°C、4MPaの高温高圧化を図るとともに、水冷式復水器を採用することで、熱落差を大きくとり、蒸気タービンシステムとしての効 率向上を図っている。空冷式と比較して、出力で1,500kW、発電効率で1.5%向上し、エネルギーをより有効に回収している。
(2)低温エコノマイザの採用とボイラー給水の低温化
本施設では、熱回収能力強化を目的として低温エコノマイザ(節炭器。従来:200°C→本 施設:185°C)およびボイラ給水温度の低温化(従来:143°C→本施設:110°C)を採用し、ボイラでの熱回収量増加を図っている。これらの手段を取る場合、ボイラ出口の排ガス温度が低下するため、ガスの露点に近づくことになり、排ガス中のHClやSO3による低温腐食が発生する危険性が大きくなる。しかし、本施設においては、シャフト炉式ガス化溶融炉の特徴である石灰石の炉内脱塩・脱硫効果により、一般的な焼却施設で懸念される低温腐食は発生していない。
(3)低温触媒の採用
廃棄物処理施設においては、脱硝触媒を設置して排ガス中のNOxを排ガス基準値以下に低減させている。脱硝触媒では、その活性の観点から、一般的には排ガス温度調節器で冷却(150〜170°C)した排ガスを、蒸気式加熱器を用いて再度200°C程度に再加熱していた。本施設においては、さらなる蒸気の効率的利用を図るため、触媒メーカーと共同開発した低温触媒を採用し、脱硝性能を確保しつつ、触媒入口の排ガス温度を180°Cとし、再加熱蒸気を4割以上削減することで、発電にまわせる蒸気量を増加させている。
こうした対策を施すことにより、性能試験時における発電端効率は3炉運転時で23%を達成できることを検証した。この時、発電電力は21,177kW(定格の約90%)であり、プラント内の電力を賄ったうえで余剰電力14,460kW(発電電力量の約70%)を売電できる能力を有している。
2.廃棄物発電の高効率化に向けた取組み
当社は、新規施設の蒸気の高温高圧化や回収した蒸気の効率的利用に加え、既存施設の基幹改修においても低温触媒の採用等による廃棄物発電の高効率化への取組みを強化している。シャフト炉式ガス化溶融炉は、上述のとおり高効率発電に適して発電量・売電量が大きいため、再生可能エネルギーの固定価格買取制度によるメリットを最大限享受できるプロセスである。今後も技術開発に努め、高効率な廃棄物からのエネルギー回収・利用をめざしていく所存である。