部門別排出量の変化
日本は京都議定書第一約束期間として2008年から2012年の間に1990年比で二酸化炭素排出量の6%削減義務が課せられています。
削減の内訳は、3.8%が森林を適正に管理することによって増大した二酸化炭素吸収量によるもの、1.6%がクリーン開発メカニズム (CDM)等により発展途上国や新興国で削減された排出削減量を取引きすることによって削減される京都メカニズムによるもの、0.6%が国内努力による排出削減によるものとなっています。
このうち、5.4%を占める森林吸収と京都メカニズムについては、国や企業の努力により達成され、0.6%の国内努力は、企業と国民によって達成することとしています。
筆者:ECOLOGライター(荒尾 正剛)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年4月号)」より再編集して掲載しています。)
国内努力は産業、運輸、民政業務、民政家庭の部門に分けられます。このうち産業、運輸部門は企業等の努力により減少していますが、民政業務および家庭部門においては増加の一途をたどっています。私たちは、身近なエコ活動として照明や暖房、冷房の温度調節、レジ袋やごみの削減などに取り組んでいます。
しかし一方で、一家に1台しかなかったテレビやエアコン、自家用車を一人1台保有する家庭が増加するなど、利便性と快適性の向上による排出量の増加が顕著になっています。このため、民政業務および家庭部門における一人ひとりの排出削減が重要であるといえます。
カーボン・オフセット市場の現状
現在、カーボン・オフセットに使用されるクレジットは、主にCER(CertifiedEmissionReduction)、J-VER(JapanVerifiedEmissionReduction)、国内クレジットの3種類です。カーボン・オフセット件数については、2008年に大きく伸びたものの東日本大震災発生以降は現在に至るまで緩やかになっているのが現状です。
また、カボン・オフセット実施主体は、ほとんどが企業や団体であり、一般に広く行われていないのが現状です。
貢献の入口と出口:募金とカーボン・オフセットの違い
誰しも何らかの形で募金することがあると思いますが、支払った募金がどういった活動に使われるのか具体的に知ることは困難です。すなわち募金は一定の目的をもって集められるものの具体的な活動が見えないのが通常です。
また、集められた募金の一部は事務経費に充てられることも多いのが実情です。一方、カーボン・オフセットは特定地域で実施されたプロジェクトにより実現された森林吸収や排出削減の量をクレジットとして購入するため、拠出した金銭の使途が明確です。
すなわち、自らの意思によって特定の地域や活動を支援することができます。
自分ごと化と見える化
地球温暖化の進行は地球規模で進んでいます。極地を中心とした氷河の後退や、ツバルの海面上昇、世界中で頻発する異常気象などは日々メディアを通して報道されています。
しかし私たちは「日常で別に困っていないから」という理由で「他人事」だと捉えてしまっている場合がほとんどです。CO2削減の必要性というのは遠い場所で起こっていることや未来に起こり得ることを想像することで初めて認識できるものです。すなわち、こういった出来事を「自分ごと化」することが必要なのです。
それでは、みなさんにお伺いします。 「あなたは、今日1日でCO2を何キロくらい出しているかわかりますか?」
ほとんどの人が想像もつかないと答えるでしょう。
一方、最近の健康食ブームで、コンビニ弁当やレストランをはじめとした多くの場面でカロリー表示がなされるようになりました。私たちは、自分の体調や健康とカロリー表示を見比べてその日のメニューを決めたりすることができるようになりました。
「見える化」されたカロリーによって自分の健康管理をすることができます。このように、私たちはカロリーの取り過ぎはいけないと考えてカロリーを「自分ごと」と捉えます。
CO2排出量も「見える化」し「自分ごと化」しなければ地球温暖化を止めることはできません。
1kgからできるカーボン・オフセット
クレジットの取引きは、二酸化炭素トン単位での取引きが通常です。この取引単位は、一般の人が簡単に購入できる単位ではありません。たとえばミネラルウォーターを例にあげると、量販店などで2Lや500mlのペットボトルで購入するのが普通ですが、もし1キロリットル単位で販売されていた場合、一般消費者が購入することは困難でしょう。
ましてや、カーボン・オフセットは個人の善意ある意思によって行われるものであり、市場形成がされていないことからどこでどのようにすれば購入できるのかを知らない人がほとんどです。すなわち、小口で誰もが簡単にできるカーボン・オフセットの構築が必要なのです。
このため、平成24年に四国内の自治体、クレジット創出者および環境先進企業等で構成される四国地域オフセット・クレジット活用連携協議会を設置し、Web上で誰でも、いつでも、簡単に排出量の算定、プロジェクトの選択、カート購入、カード決済までできる算定選択購入(CCP:Calculation&Choice&Purchase)システムを導入したプラットホームHPを作成しました 。
このシステムでは、排出量算定カリキュレーターで自らが選択した排出量を算定し、支援したいプロジェクト選択のオフセット・クレジットを1kg-CO2単位で購入することができます。また、オプションとして、オフセット・プロバイダーからカーボン・オフセット証明書を発行してもらうことができます。また、より多くの人にカーボン・オフセットに取り組んでいただくための手法として、カーボン・オフセットシールがあります。
このシール1枚には1kg-CO2のJ-VERが付けられており、名刺や年賀状、手紙、プレゼントに貼ることで相手の排出削減に貢献することができます。まずは10円から始められるカーボン・オフセットとして今後の拡大が期待されています。
おわりに
CO2の見える化については、経済産業省のカーボン・フットプリントや、地方自治体のフードマイレージなどの取組みにより、一定の成果が得られるようになってきました。しかし、一般に広く普及されているとはいえません。
原子力発電所の停止によるエネルギー施策および日本の温室効果ガス削減目標の見直し、また京都議定書第二約束期間における日本の離脱表明により、一見、温暖化対策の士気は低下しているように捉えられています。
しかし、カンクン合意に基づく報告義務や2021年からの新たな枠組みへの挑戦など、温暖化対策は、私たち人類の避けられない課題として刻一刻と迫っています。一人ひとりの小さな努力も多くのマンパワーで大きな成果を得ることができます。今後のカーボン・オフセット普及拡大は、その一端を担っているといえます。