2013年初めごろより、「中国の大気汚染、特にPM2.5濃度はひどい、日本にもこの大気汚染が押し寄せてくる」と急に言われるようになりました。
ここに至る経緯を簡単に整理すると、中国では10年以上前から都市大気汚染指数APIを公表してきましたが、1日1回しか公表しない、PM2.5やオゾンなどの項目が含まれていない、「体感の汚染度と異なる」との指摘が相次ぎ、PM2.5も含むバージョンアップ版である都市空気質指数AQIを策定し、全国で大気環境モニタリング体制を整えようとしていました。もともと2016年に導入するつもりでしたが、2011年10月後半頃から北京等北方地区で濃霧が頻発し、空港や高速道路の一時閉鎖が相次ぎましただ。当初、環境行政担当者は気象現象としての霧であると説明していましたが、北京の米国大使館がPM2.5実測データを公表し、北京のPM2.5濃度が高いことを示して以来、この濃霧の正体はPM2.5をベースとするスモッグであるとして中国内で議論が沸騰、世論は特に早急にPM2.5モニタリングするよう迫りました。
結局、環境保護省はAQI導入を前倒しするように切り替えました。2012年終わり頃から準備の整った大都市部でAQI数値を公表することになり、北京でも2013年1月1日から本格公開しました。しかしこの数値が、1月にすさまじい値になってしまって、大騒ぎになったのです。運悪く1月は気象条件が最悪となったためです。
実際に大気汚染物質排出量と大気汚染濃度は、一定の関係はあるものの完全な相関関係になりません。中国ではここ最近、自動車排気ガス規制は厳しくなっており、発電所での脱硫脱硝集塵は徹底されるようになり、汚染物質排出量は若干減少し、植林緑化も大規模に進めています。1月の大気汚染数値が高かったのは、気象条件の悪さのためです。低気圧や無風状態が長く続けば大気汚染はひどくなってしまうのです。
実際の中国都市大気汚染のトレンドはどうなっているのでしょうか。中国の主要都市では10年以上前から大気中のPM10、SO2、NOxを測定しており、このモニタリング結果によると、都市ごとに差はありますが、およそ90年代後半や2000年頃が大気汚染のピークであり、その後は多少の変動はあるものの大気汚染は改善傾向にあると示されています。
このため「ここ数年中国の大気汚染は悪化した」という表現は間違っています。正しくは「中国では詳細な大気環境モニタリングで、大気汚染レベルの高さが正確に把握・公表されるようになった。様々な対策の成果で中国の大気汚染は徐々に改善するトレンドにある」です。
また日本の現在の大気汚染のほとんどは中国大陸由来だとの報道もありますが、学術研究成果を見ると必ずしもそうとも言い切れません。例えばPM2.5では、西日本での中国由来の越境汚染の寄与率は5割以上ありますが、首都圏等では日本からの寄与率も大きい、オゾンでは最大でも2割だとの研究成果もあります。正確な測定・分析には時間はかかると思いますが、中国からの越境大気汚染は一定の割合を占めますが、日本国内由来の部分も少なくないという現実に向き合う必要があります。