―日本と中国のNPO交流の現場から
日本でのNPOとNGO
日本国内に関しては、今やNGOよりNPOがより一般的な表現になっているようです。今や、というのは、日本でもNGOの方が一般的だった時期もあったからです。もともとNGOという言葉は国連憲章第71条に由来し、この条文のNon-GovernmentalOrganizationの正式な日本語訳は 「民間団体」とされています。もっとも、非政府組織より平板な語感とは対照的に、ここで規定されているのは、一般にいうNGOよりずっと限られた団体だそうです。
筆者:ECOLOGライター(鳥取環境大学経営学部准教授 相川 泰)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年5月号)」より再編集して掲載しています。)
日本でNGOという言葉が広く知られるようになったのは、1992年にリオデジャネイロで開かれた地球サミット(国連環境開発会議)の前後でした。ここへの参加を動機や契機として設立された団体もいくつもあり、既存の市民団体やボランティア団体も含めて民間非営利の組織をNGOと総称されるようになりました。
これは決して環境分野に限ったことではありませんでしたが、とりわけ環境分野でNPOよりNGOが使われることが多かったのは、前頁に記した理屈以上に、こうした歴史的経緯の影響が強いかもしれません。
とはいえ、とくにいわゆるNPO法ができて法人格を取得する団体が増えてくると、もはや他の分野はもちろん環境分野でもNPOよりNGOが使われる傾向が強いともいえなくなってきました。もちろん、普段NGOといっている団体がNPO法人格を取得することも珍しくありません。なお、NPOといえばNPO法人のみのこと、という狭い解釈も存在しますが、もちろんここで述べているのは、より広い解釈からのものです。
狭い解釈も、制度論などでは必要、有用ですが、この連載のように、活動の内容や実態に即した話をするうえでは不便です。というのも、今、NPOと広くまとめられているような団体や活動をしているのは、他の法人格を持つものも、さらに法人格を持たないものも多数あるからです。
とくに、NPO法の制定・改正と並行して他の法人制度改革も進んだことで、20年前から現在までの間に、同じ状況に置かれた団体にとって一番合理的な法人格の取得の選択肢は時期ごとに変化してきました。
その結果、活動内容がほぼ同じでも、ある団体は公益財団法人、別の団体はNPO法人、さらに別の団体は一般社団法人、ほかに法人格未取得の任意団体も存在する、というような状態も生じました。そうした活動領域が多々あるなかで、あくまでNPO法人に限定するのが合理的とは思えません。
私が参与観察している範囲でも、所属団体が任意団体、財団法人、NPO法人の人が、それぞれ、所属団体をある時はNGO、ある時はNPOと紹介している例があります。
中国出版物のNGO
中国でNGOがNPOより一般的なことは、前回訪中の際に入手した、昨秋から今年にかけて出版された複数の本も示してい ます。胡・王主編『中国2013関鍵問題』(線装書局)という、去年、中国が内外で直面する課題を列挙した時事解説書には、最後の第5章「社会再建」に、秋風という著者による「NGO与治理理念(NGOとガバナンスの理念)」という節が入れられています。
王名主編『中国NGO口述史第一輯(』社会科学文献出版社)は、中国のNGO関係者第一世代20人のオーラル・ヒストリーをまとめたものです。なお、公平を期して付記しますと、この編者が代表の清華大学NGO研究センターは『非営利評論』というシリーズを出しています。陶ほか著『水環境保護中的NGO――理論与案例』(社会科学文献出版社)は水環境の保護で環境NGOが果たす役割を、理論面および59もの事例(ただし、一部重複)から検討したものです。上記のとおり「非営利」の用例はあるものの、今回、見ることができた範囲ではNPOの語が入った本はありません。
2014年2月号で紹介した『中国の市民社会』に付けられた「動き出す草の根NGO」というNGOが入った副題も、同様のことを傍証しています。この本の中にはNPOという言葉も登場しますが、中国の団体についてはNGO、日本の団体についてはNGOとNPOが使われ、自然に使い分けられています。私もこれを見習って、NGOだけでなく、NPOという表現も本文中にも使っていこうと思います。結局はまさに宣言にあったとおり「必要がある場合」に限られるかも知れず、当面は試行錯誤が続きそうですが。