Google・Microsoft社のカーボン・オフセット事業


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−世界のカーボン・オフセットの最新事情

 

筆者:ECOLOGライター(三菱UFJリサーチ& コンサルティング(株)環境・エネルギー部  主席研究員 竹田 雅浩)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年6月号)」より再編集して掲載しています。)

1.世界のカーボン・オフセット(ボランタリー)市場動向

世界のクレジット(排出削減・吸収量)市場は,京都議定書やヨーロッパの排出量取引制度(EUETS)等の法的拘束力をもった制度に基づいて発行されるクレジットを扱うコンプライアンス市場と,それ以外のクレジット(VER)を扱うボランタリー市場とに分けることができます。

 

カーボン・オフセットは京都議定書で扱うCERを用いることもできますが,本稿では,VER市場をカーボン・オフセット市場として概観することとにします。

 

1.1 ボランタリー市場の規模

米国の調査会社注1)によると,2011年のボランタリー市場でのクレジット総取引量は9,500万tCO2であり,2010年比で28%減少しています(ただし,2010年は一件で590万tCO2に及ぶ大規模な取引があったため,これを除くと2010年比28%増となる)。

 

これに対して,2011年のコンプライアンス市場でのクレジット総取引量は101億8,900万tCO2と巨大な市場であり,ボランタリー市場はコンプライアンス市場の約1%程度の小さな市場であることがわかります。

 

一方で,ボランタリー市場の取引きは,京都議定書第一約束期間前に比べて大きく拡大してきました。たとえば,2005年を基準でみると約10倍くらいの市場に成長していることがわかります。

取引形態としては,株式のように取引所で売買するものと相対による店頭取引(Overthe Counter:OTC)がありますが,2010年に米国のシカゴ気候取引所(CCX)が閉鎖されたため,現在では店頭取引が主流となっていま
す。

 

1.2 ボランタリー市場のプロジェクトタイプ

VER市場のプロジェクトタイプ別のシェアを見ると,風力が30%,新規植林/再植林が10%,森林減少抑制(REDD)が9%,次いで埋立地ガス回収7%と続きます。

 

現在,国際的に議論されているREDDのプロジェクトがあることからもわかるように,VER市場は「コンプライアンス市場を補完するもの」,「新規方法論の研究開発の場」といわれ,コンプライアンス市場の需給バランスの調整やプロジェクトに取り組む事業者のリスクを軽減する機能を有しています。

 

1.3 クレジットの無効化量

今まで,VERの取引市場を見てきましたが,クレジットの無効化量を見るとカーボン・オフセットの取組みそのものの規模を見ることができます。

 

米国の調査会社の推計になりますが,2011年には4,900万tCO2が無効化されていると考えられ,京都議定書の第一約束期間開始頃から年々無効化量は増加しているも
のと考えられています。

 

1.4 カーボン・オフセットのマーケットシェア

では,取引されているクレジットはどこの国が買っているのか,最大の購入国は米国で43%と約半数近いクレジットを購入していることがわかります。次いで英国26%,ドイツ13%と続き,世界38カ国で取引があります。

 

 

2.主要国のカーボン・オフセット市場動向

それでは,先ほどご説明したクレジット購入国上位2カ国の米国と英国のカーボン・オフセット市場の特徴と取組事例について個別にみていきましょう。

 

2.1 米国

北米はもともとボランタリーな取引が盛んであり,コンプライアンス市場向け以外の純粋なボランタリー市場取引は,2011年には18百万tに達しています。

 

産業別シェアは,製造業36%,エネルギー22%,その他カーボン市場での取引が17%であり,クレジット購入目的は,広報,ブランディングが36%ともっとも多く,次いでCSR目的が30%となっています。

 

米国では,コンプライアンス市場を想定した取引(pre-compliance)は14%に過ぎず,他国と比較しても,ボランタリーなカーボン・オフセットの取組みに積極的な地域といってよいでしょう。

 

では,どのような企業がカーボン・オフセットに取り組んでいるのでしょうか?

VER認証基準のClimate Action Researve(CAR)のレジストリ上でプロバイダが第三者に代わり償却を行ったもののうち,企業名が公表されているものを以下に示します。

 

Google社のカーボン・オフセットの取組み

Googleは,2007年からカーボン・オフセットの取組を開始しており,米国におけるカーボン・オフセットの取組のうち,最も有名な取り組みの一つといわれています。

同社が公表している,Carbon Offset White Paperでは,データセンターからの排出削減に取り組んだ上で,クレジットを購入している流れが図示されており,プロジェクト選定にあたっては,プロジェクト自体の採算性等を厳密に検証のうえ,プロジェクト実施が妥当と判断したうえで,米国内での埋立地ガス回収,農業(家畜糞尿)メタン回収,森林プロジェクト等のクレジットを購入したとのことです。

 

Microsoft社のカーボン・オフセットの取組み
Microsoft社は,2013年(財務年度,2012年7月1日)より,世界100各国以上の自社ビジネスのカーボン・ニュートラル化の取り組みを開始しています。

自社内の活動に伴うカーボン排出量をコストで見える化することで,社内におけ
る削減取組を促進するとともに,データセンター,オフィス,出張に伴う排出のオフセットを行っています。

同社は,自社内のカーボンコストを認識することを重視しており,社内の部門(データセンター,R&D,製造,PR部門,管理部門)ごとに削減努力を実施し,それぞれの部門から生じるカーボンコストを自身で負担させる点が特徴的といえます。

使用するクレジットはグリーン電力証書(REC)であり,認証基準等は公表されていませんが,自社のカーボン・フットプリントを詳細且つビジュアルで効果的に表現するなど,諸外国のカーボン・オフセットの取組のなかでも先進的な事例といえます。

 

2.2 英国

英国では,EUETSのクレジット価格の下落により,クレジット売却益を見込んでプロジェクト開発に参加したデベロッパーは苦戦を強いられており,カーボンビジネスから撤退する企業が多くなっています。

 

このようなコンプライアンス市場の縮小により,クレジットを保有するプロバイダやデベロッパーの多くが,ボランタリー市場に参入しており,うち一部は米国や新
興国にも進出を考えている事業者もいるようです。

 

一方で,クレジット価格の急落により,CSR目的にクレジットを購入する企業にとっては割安感が増していますが,価格だけではなく,我が国のJ-VER制度のよう
に,地域コミュニティの貧困削減に貢献するといった強いストーリ性のあるプロジェクトのクレジットを好んで選択してカーボン・オフセットに取り組んでいるようです。

 

マークス&スペンサー社のカーボン・オフセット取組み事例
英国の大手スーパーの一つであり,英国内の店舗のカーボン・ニュートラルのため,カーボン・オフセットを実施しており,英国内での大規模なオフセット事例の
一つです。

ウェブサイト上では,自社のカーボン・ニュートラル達成に関する詳細説明のほか,算定方法,オフセットに用いたプロジェクトをウェブサイト上で紹介している。

子どもにもわかりやすいイラストや写真を用いており,初心者にもわかりやすいよう工夫されています。

使用するプロジェクトは森林系が2件,南アフリカの地方電化プロジェクトが1件,再生可能エネルギープロジェクトが2件(いずれもVCS)紹介されています。

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