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2016.04.19

ファインバブル(微細気泡)技術を利用した豚の飼養の形

オーエスラボ株式会社 代表取締役


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環境に配慮した畜産経営

グリーンブルー株式会社 代表取締役 谷學

環太平洋戦略的経済連携協定(以下、TPP)は、2015年10月にアトランタ会合で大筋合意されました。これを受けて政府は同年11月25日にTPP対策の「政策大綱」を決定しています。関税障壁の撤廃は充用5品目(米、牛・豚肉、麦、乳製品、砂糖)も例外なく、協定が正式に成立した後5年以内に完全撤廃を余儀なくされます。

政府は「産地パワーアップ事業」の推進を旗印に、農家の生産設備整備の支援を図るようです。米農家に限らず畜産業に対しても、かつての「畜産クラスター事業」の例にならって、畜産農家の体質強化に向けた支援事業を計画しています。ここでは豚の飼育に焦点を当て、最新技術”小さな泡のパワー-ファインバブル技術”の導入を図ることで、養豚経営の在り方が激変する可能性について紹介します。

 

豚飼育の現状と課題

2012年における日本の農業総生産額8兆5000億円のうち、畜産は30.4%の2兆5880億円を占めています。このうち養豚は20.7%の5367億円で、日本人のタンパク源を補う食材として、大きな役割を担っていることは言うまでもありません。

一方、日本における豚の飼養頭数は毎年減り続け、2014(平成26)年2月現在で954万頭となっています。豚の飼養頭数の減少幅は、2011(平成23)年~2014(平成26)年の過去4年間で、年0.3~1.5%減であり、直近の2014年は対前年度比率マイナス1.5%でした。

飼養戸数の減少も大きく、2014年の5300戸は、10年前の2006年の8900戸に対し40%減に相当します。ところが、1戸当たりの平均飼養頭数は2014年で1810頭で、逆に10年前の65%増となっています。つまり、小さな養豚農家が廃業に追い込まれ、養豚経営が大型化に向かっていることを示しています。

 

養豚が抱える課題

豚は1日に、穀物換算で約7kgの餌を食べます。そして、排泄物の量が5.9kg/日(ふん2.1kg/日、尿3.8kg/日)で、尿の比率が牛や鶏と大きく異なり、その適切な処理が大切です。豚のふん尿処理は、ふんと尿を分離し素早く適切な処理を行わないと「悪臭」や、地下水や河川、湖沼の「水質汚濁」、そして「害虫の発生」といった深刻な環境問題を生じさせます。
前述した小規模養豚農家が離農する背景には、こうした環境問題に対応できなかったことも大きな要因のひとつに挙げられます。

2004年に「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」が施行された後、「農業環境規範」(2005年…環境と調和のとれた基本的な取組の実行状況を農業者自らが点検)による働きかけ、さらに2006(平成18)年の「有機農業推進法」公布、2007(平成19)年の「農地・水・環境の保全向上対策」、加えて2011(平成23)年の「環境保全型農業直接支援対策」、また、2015(平成27)年の「多面的機能発揮促進法の施行」などにより、養豚排泄物問題はかなり改善されてきたと考えます。
ちなみに、2013年における苦情発生状況は図1の示した通りで、養豚農家の全戸数5270戸の11%、587戸で悪臭や水質汚濁、また害虫発生があったと苦情が寄せられています。

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図1 養豚農家の苦情発生状況

 

養豚経営は、動脈ラインと整脈ラインのバランスが大切

(1)動脈ラインの視点での生産性要素
2011年における豚1頭当たりの生産コストは、全養豚農家の平均額が33万2432円、一方、1000頭以上を飼育している大規模農家のおコストは3万369円で、その差は2063円です(図2)。このうち飼料費に占める割合は、大規模農家で64.5%の2万1246円で、その差額は1628円/頭です。つまり、差額に占める飼料費の割合は80%(1628/2063×100)であると言えます。
この他にも大規模農家では家族労務費が少ない、人を雇用して経営ができるなど、大規模農家が優位性を持っているのは明らかです。

ちなみに1000頭以下の農家の多くは国の農業政策の一環である「配合飼料価格安定制度」や「経営安定化事業」などの補助を受けています。従って小規模養豚農家の戸数減少と大規模化への流れはこれからも続くと考えられます。
大規模農家の強みは、動脈ラインの主要素である飼料費が低いことで、全述の雇用労働者の労働力や「その他のコスト」にお金が使えることから、畜舎(分娩舎、肥育舎など)や施設(堆肥舎や浄化槽など)の維持管理、つまり豚の育成とその環境(衛生管理や宿舎の適正運用など)にも力を注げます。

言い換えれば子豚の繁殖や育成率の向上、結果的には肥育豚の出荷量の増加も期待できます。大規模化は養豚経営における”KFS”(Key Factor for Success:事業を成功させるためのキーとなる要因)と言えます。さらには、出荷する枝肉のブランディングアップをも期待できます。

図2(ecolog)
図2 豚1頭当たりの生産コスト比較(円/頭)

 

(2)静脈ラインが養豚の生産性を高める
図3には、ほほ1000頭の肥育豚を出荷している養豚農家の畜舎、施設、機械の構成割合を示しました。畜舎とは、分娩舎、スレート舎肥育舎1.2、離乳舎で構成され、このケースでは、養豚施設総体の36.0%の資本が投入されています。
施設は、管理舎、堆肥舎1.2、原水槽、出荷場、浄化槽で構成され、言うなれば静脈ラインである排せつ物処理関連施設で40.6%も占めています。この中でも、浄化槽には33%が投じられていることが分かります。

こうしてみると”豚には切っても切れない水処理がある”の言葉通り、豚の飼養には、排せつ物処理の適正化が鍵を握っていることは間違いありません。

豚の飼養に伴う排せつ物処理には、小規模のケースでは通常「回分式活性汚泥処理法」が採用され、大規模農場では「連続式活性汚泥処理法」が採用されています。いずれも前述した通り、適正処理はふんと尿の分離が鍵であり、浄化槽への固形分混入を防ぐことが大切です。その利用を考慮すると、動脈ラインである飼料への抗生剤の購入比率を下げることは言うまでもありません。
また、健康な豚の飼養には畜舎の衛生管理も大切で、ここでの清掃薬剤の投入量を減らすことも大切です。もちろん豚への予防接種頻度も下がることが期待されます。

こうした豚飼養の実現により、ふん、尿はもとより、敷ワラまたはバイオベッド、さらには洗浄水などに含有する薬剤の汚染が低く抑えられることから、固形分は良質な堆肥として利用が可能です。
また、浄化槽で処理した処理水も、河川などに直接放流することができ、もちろん液肥として利用することも可能です。

こう考えると、動脈ラインの配合飼料や畜舎の衛生管理に徹底した豚飼養は、子豚の出産頭数にも影響しますし、肥育豚の育成率にも大きく影響すると考えます。これは見方を変えれば、静脈ラインの排せつ物の適正処理が、大きな決め手となると筆者は考えます。

そこで、最近注目されている「ファインバブル」(微細な気泡)技術を導入した、養豚排せつ物(豚尿)処理をベースに、養豚経営の在り方を見事に変革(生産性向上)させた事例について紹介しましょう。

図3(ecolog)
図3 1000頭を飼養する養豚場の施設規模94000千円の構成内訳

 

ファインバブルとは

まずはファインバブルとはどのようなものか説明します。透明なホースを使って水撒きをする時、そのホースを捻った時に、中の水が白く小さな泡で濁ることを経験したことがあると思います。通常目に見える気泡は、図4の左側に示したものがほとんどで、これはすぐに水面に上昇し、破裂して消えてしまいます。
ところが近年、微細な気泡を造る技術が発達し、数ミクロンから数十ミクロン(※)レベルの微細な気泡を造ることが可能となりました。

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図4 微細気泡の定義

この小さな気泡、すなわちファインバブルは、物の表面の汚れを落とす「洗浄力」、あるいは皮膚の傷口の治りをよくする「殺菌効果」、また「汚水の浄化力」や養殖魚や植物の成長促進を早める「生物育成促進」といった「生理活性」など、さまざまな効果があることが分かってきました。
しかし、ファインバブルが起こすさまざまな事象・現象について、これまで技術的・科学的な証明はされていませんでした。ところがここ2、3年で、微細気泡の粒径や密度が計測できる手法が開発され、水中のファインバブルが計測できるようになりました。

従って数多くあるファインバブルの発生技術に対して、規格の確立が求められ、2013年6月に国際的な規格統一を図る目的から、日本国内に国際標準の専門委員会(Technical Committee、ISO/TC281)が設けられました。前述した通り、微細な気泡には※ミクロンサイズ(=千分の1㎜)のものもあれば、それより小さい※ナノサイズ(=千分の1ミクロン)のものもあります。

専門委員会では、※0.1ミクロン~100ミクロンの微細気泡の名称を、今後”ファインバブル”に統一することが決定しました(図4)。図4から、通常の気泡は水中から直ちに上昇し水面で破裂しますが、ファインバブルの中でも数百※ナノサイズの気泡は水中における滞留時間が長く、場合によっては気泡径がさらに収縮を重ね、最後は圧壊し、非常に化学反応の高いヒドロキシルラジカル(・OH)や水素イオン(H+)が発生すると言われています。
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ファインバルブ技術を応用した豚尿処理の利活用

豚舎を不衛生にすると、豚の疾病の原因となります。さまざまなウイルスや細菌の繁殖により養豚経営ん9大きなダメージを与えます。従って、豚舎の衛生管理は養豚経営における要諦といえます。豚の疾病にはウイルス性疾病、細菌性疾病、その他多くの疾病が紹介されていますが(家畜衛生の進歩№38参照)、養豚経営のKFSは畜舎の衛生管理で、静脈ラインのマネジメントに尽きます。先に説明した通りふんと尿の適切な処理にかかっているのです。

ファインバブル技術を導入して理想的な養豚経営を実現している、秋田の有限会社ポークランドグループのケースについて紹介します。同社では、”魔法の水”(バクテリアとミネラルと水を混合したもの)を豚の飲み水として使用したり、豚舎の洗浄水として天井から噴霧することで豚の成育環境を改良しています。

結果として子豚の成長が早まり、色鮮やかで肉質が軟らかい枝肉の生産を可能にしています。ファインバブル水の活用で、豚舎や汚水処理場の臭いは他の農場に比べて低く抑えられています。

この魔法の水と言われる有益な水の製造法は、ファインバブル発生装置(富喜製作所製、ミクロスター)を組み込んだ「連続式活性汚泥槽」で豚尿を処理し、次いで処理水を貯留する沈殿槽においてもファインバブル発生装置でバブリングが繰り返されています。処理汚水は確かに処理後の過程でミネラル分とバクテリアを含ませる工程がありますが、豚尿にも充分なミネラル分はありますし、微生物も生息しています。

筆者は、キーテクノロジーはファインバブルにあると考えています。前項で説明した通り、ファインバブルには洗浄力、殺菌効果、汚水の浄化力、減臭効果、そして生物育成促進といった「生理活性効果」があることが説明されています。

ただし、ポークランドで飼養されているSPF豚の「桃豚」はLWDで、ポピュラーな品種です。ポークランドにおける豚の排せつ物処理は、徹底した固液分離を行っており、ふんはバイオベッドとともに完熟堆肥を製造する堆肥舎に、また尿は前述した通り浄化槽で処理され、次いで沈殿槽においてもファインバブル発生装置でバブリングしています。

無菌豚であるSPF豚の飼養ですから、畜舎の衛生管理は徹底していますが、それにファインバブル水を使用し効果を上げています。ちなみにポークランドにおける肉豚1頭当たりの薬剤費は、一般的な養豚農場の平均額1621円に対し、桃豚では約5分の1の339円と低額を実現しています。ポークランドと他の農場の生産性の比較を表1に示しました。

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最後に

疑似回分式浄化槽を2槽制作し、一方はファインバブル発生装置を設置、他方には通常の散気管を設置し、豚尿の浄化試験を行った結果、水質評価には両方法で大きな差はありませんでしたが、酸素を過剰に送り込むことができるファインバブルのほうは、硝化菌の繁殖が活発で硝化反応が促進されることから、アンモニア臭が明らかに減臭することが分かりました。詳しくは、「養豚排せつ物(豚尿)におけるファインバブル曝気と散気管曝気の比較試験について」をご参照ください。

この記事の著者
谷 學

谷 學

オーエスラボ株式会社 代表取締役
環境事業支援コンサルタント・経営士・環境経営士。元グリーンブルー株式会社代表取締役。日本の公害対策の草創期より環境測定分析の技術者として、環境計量証明事業所の経営者として、環境汚染の改善及び業界の発展のために邁進。2007年には経済産業大臣より計量関係功労者表彰を、2013年には経営者「環境力」大賞を受彰。50年にわたる環境問題への取組み実績を持つオピニオンリーダー。

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