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2015.05.15

中国 環境保護次期五カ年計画「十三五」と「一帯一路」の連携

チャイナ・ウオーター・リサーチ(CWR)代表


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現在、環境保護「十三五」(2015〜20年)計画が策定中だが、中国の経済が全面的な「ニューノーマル(新常態)」段階に入っており、「十一五」計画、「十二五」計画から大きな変化はあり得ない。中国に専門家達は「十三五」期間中の環境保護投資は年間2兆元(約40兆円)を予測しており、環境保護産業は新たな投資先となる、と言う。

 

5月6日環境保護部環境計画院副院長の呉舜澤は、環境保護「十三五」計画最大の変化は過去の総量規制を核心とした思想を改め、質量改善を核心と置き換えていると述べ、更に呉は、「2020年の環境質量全面的に(基準を)達成する事は不可能で、現実的ではない」とも指摘している。

 

「環境保護の大躍進」はない!

 

「十三五」計画では恐らく、近五ヶ年計画の中でも最も特殊な五カ年計画と思われる。中国経済は全面的な「ニューノーマル(新常態)」段階に入ったことから、「十一五」計画と「十二五」計画とその変化は大差ないものとなるだろう。

環境保護「十三五」計画の編制路線はすでに調整が進んでおり、環境保護部科学技術基準司副司長の劉志全は以下の三大転換を示唆している。

 

①総量規制から質量改善への転換
②一次汚染の防止整備から二次汚染防止整備に移行する。
③単独コントロール汚染物は多種汚染物の多方面規制へと移行する。

 

このなかで、最も重要なのは総量から質量への転換だ。過去には総量規制を重大アイテムと捉えていたが、結局「数字のお遊び」でしかなかったことから、質量目標の改変は必須となった。しかし総量削減目標は引続き実施することに変化はない。

前出の呉の分析を基にすると、短期的には生態環境保護と農村、特に全国960万km2、31省、300の地方級都市の「環境小康」段階に入る事は不可能だろうが、最低限任務責任の範疇には、重度の大気汚染整備、悪臭汚染水の徹底処理、城郷飲用水源地と農用土壌環境質量の安全保障、健全な環境リスクの全過程管理コントロールメカニズムの構築、突発性環境事故の緊急対応、国民の健康保障等が含まれると思われる。

 

「小康」指標を基盤とする環境保護「十三五」計画目標は、2020年時点で主要汚染物の排出総量を顕著に削減させ、大気と水環境質量を段階的に改善し、土壤環境悪化トレンドを規制する。環境リスクでは有效な管理を実施し、生態環境整備レベルと全面小康社会と符合させると言う。その具体的な施策として、2020年までに、珠江デルタのPM2.5の年平均濃度基準を先行達成させ、長江デルタは現行の珠江デルタレベルまで引上げる。北京、天津、河北の基準達成は長江デルタ基準レベルに引上げ、2025年までに長江デルタは規定基準を達成させ、京津冀(北京、天津、河北)では2020年時の長江デルタレベルを達成させる等の施策だ。

 

 

この「饗宴」に、企業は如何にありつくか?

 

「大躍進」はしないと述べたが、新政策の公布は環境保護産業の発展には有効である事は間違いない。 近年来、中国は環境保護分野に毎年約1兆元(約20兆円)を投入してきた。先般公布した「大気十条」、「水十条」に続き、公布間近の「土十条」で見れば、「十三五」期間中の環境保護投資額は毎年2兆元に増加すると予測される。

上海の例で見ると、上海環境保護局幹部は、「過去15年、上海はすでに「環境保護三年行動計画」を五回実施しており、市政府は年間環境保護投資をGDPの3%以上を承認している。ことしは市として新たな「環境保護三年行動計画」を実施する。大気、水源、土壤、工業等八大領域で230余の重大プロジェクトと中小プロジェクトに3年累計で1000億元(約1.944兆円)を投入する」と述べた上で、「環境保護企業は更なるビジネスチャンスを享受できるだろう」と言う。上海のVOC総量は高く、十年前のSO2総量に相当し、工業産業の各領域に分布している。重点整備対象企業は約2000社、改善整備は急務だ。このビジネスチャンスを狙う環境保護企業は受注競争に奔走している。

また、上海市政府は一部体制内の業務を移譲したい意向を示している。それは一部の環境モニタリングと環境コンサル業務だ。行政業務を市場に移譲する事で更に効果的な整備を確保でき、財政圧力の低減効果も確保できる考えている。

 

 

業界関係者は、環境整備は地方政府と企業との合作が最も重要と考えている。

 

先日閉幕した上海環境保護展示会では、多くの企業は「商売」は以前より良好と言う。常州金能環保工程有限公司の関係者は、広告は出していないが、ユーザーは引きもきらさず設備を購入すると言う。その理由は政府の汚染排出企業に対し厳しい規制を課した事にある。これまで、汚染排出企業は「粗悪な設備」を通じ罰金支払で「お茶を濁し」通常は設備を稼働していなかった。しかし今は汚染処理施設の設置と処理は必須となっているからだ。

 

しかし、一部の企業はこの状況を過度に楽観している。「環境保護産業は発展する」との思いは理解するが、ボトルネックも存在する即ち、「資金不足」だ。事実、環境保護には相当の「資金が必要」であり、このため多くの地方政府は環境保護対策と実施で、「慢性的な負債病」に喘いでいる。こうした現状から、地方政府はPPPモデルによる社会資本導入に積極的で、資金問題を解決できると考えている。しかし社会資本側は依然として傍観段階にあり、その積極性は高いとは言えない。この資金問題が解決できなければ環境保護産業の発展は望めない。

 

 

「一帯一路」構想を背景とする、中国環境保護産業の海外進出

 

「一帯一路」は中国の高度な“国内統合、海外統合”を目指す2大重点戦略政策である。「一帯一路」の実施に伴い、中国は、省エネ環境保護産業を国際市場(優先は当面国内市場)に参加させ、市場競争獲得を国家重大戦略の発展計画実現を目指している。裏付けとして、一昨年8月国務院は『省エネ環境保護産業の高度成長に関する意見』を発表した、この発表内容は、省エネ環境保護産業の高度成長、投資牽引と消費、新経済成長ポイントの形成、産業のアップグレードと成長モデル転換の促進、省エネ排出削減と民生改善の促進、2020年全面「小康」社会の構築等に関して重要な意味合いを持もつ。

 

しかし、課題もある、即ち「技術」と「資金」だ。現状の技術では訴求力が乏しい事から、中国は「一帯一路」構想における環境保護産業を、中国—ASEANと関連付け、更に上海合作機構、中国—アラブ連合、日中韓連携、大メコン川区域等で、区域環境合作を重点メカニズムと捉え、自国の技術力を補完する技術交流と産業発展をこの合作を重要な位置づけとしている。特にASEAN諸国に対し、すでに中国は環境保護産業の「海外進出」の重要目標国家群としている事だ。一昨年中国の李克強は第16次中国-ASEAN(10+1)指導者会議で中国とASEANによる「2+7」合作フレームワークを提案している。この中で、中国-ASEAN環境保護産業技術・産業合作交流モデル基地建設の構想を述べている。

 

ASEAN諸国を中国の環境保護産業の海外進出の重点領域とし、中国-ASEAN環境保護技術と産業合作交流モデル基地を広西と宜興環境保護科学技術産業パーク内のテストワークショップとして設置を計画しており、環境保護の技術移転、共同開発を行い、自国の技術の引上げを図り、諸外国から導入、吸収した技術を選別し、技術競争力のある環境保護企業を育成する壮大な計画である。

 

こうした計画を支える資金は中国共産党が設立を進めるAIIB(アジアインフラ投資銀行)だ。参加諸国から集めた資金を中国指導で進めるプロジェクトに優先的に投入される可能性が極めて高い。中国の「資力」に期待できるとしているが、その実、世界最大の借金大国を伏せている。

 

技術移転、技術共同開発の名の下で、自国の低技術を補完し、資金はAIIBという自国のみを利する中国型国際金融を活用し、自国の環境保護産業のみを成長させようとする構想、と思うのは筆者のみだろうか。環境保護先進国の我が国の先進技術は喉から手が出る程「欲しい」のが中国だ、事実、中国の環境保護関連機関、企業、メディア等による「考察団」の訪日件数が増えている。

 

この汚染整備に積極的に協力し、日中の政経関係を改善促進しようとする考えは良く理解できるが、長年培って来た「先進技術」を上述の協力の元にいとも簡単に移譲することは得策ではないと言うより「愚行」だろう、と筆者は考える。新幹線導入の事を思い返せば、理解できると思う。結局、市場では日本の技術は模倣され、あたかも中国独自の技術として、世界市場に拡散している。

 

日本企業も政府機関も中国が予測する環境保護市場規模(20〜40兆円:原資拠出先が不明)に惑わされる事の内容、詳細に分析し対応することが重要であろう。

 

 

 

備考①
「小康」を指標とする「十三五」計画では、2020年には主要汚染物の排出総量を明確に削減する事を目標としている。目標には①大気や水環境質量の段階的改善、②土壤環境悪化傾向の抑止、③環境リスクの有效的な管理コントロールの確立、④生態文化制度のシステマイズの確立を目指すとしている。更に2020年から2030年には①全国の大気と水環境質量の全体改善、②土壤環境質量への保障、③経済社会発展と環境保護の協調、④生態環境レベルの全面的な向上の構築を目指すとしている。

備考②
大気質量:「3つの5年」により珠江デルタ地区(PM2.5年平均濃度42ug/m3から35ug/m3)、長江デルタ地区(第一期5年PM2.5年平均濃度60ug/m3から42ug/m3)、北京、天津、河北(第一期5年PM2.5年平均濃度93ug/m3から60ug/m3)へ段階式に改善させる。

水環境質量:分子(水量)と分母(汚染物排出量)の両方面で改善する。水量では、少量取水(水資源論証、地下水取水制限)、增加水(水量調度、水源涵養、生態流量)、節約水(工業、城鎮、農業)の3アイテムを改善し、汚染物排出では、経済モデルの転換(循環型発展構造の調整)、排出削減(農業、生活、工業、船舶、港湾)、負荷削減(河川湖沼、人工湿地、底泥浚渫)3アイテムの改善だ。

土壤汚染整備:水・土との共同整備、汚染物移送、転化、流動を十分に考慮する。微汚染は厳格に処理し、既汚染は厳格に管理監督を実施、地下水重金属と有機物汚染のシステム修復。

この記事の著者
内藤 康行

内藤 康行

チャイナ・ウオーター・リサーチ(CWR)代表
日揮株式会社、ヴェオリア・ウォーター・ジャパン株式会社、日本テピア株式会社中国事業部部長等を経て、現在、チャイナ・ウオーター・リサーチ代表を務める。中国の水環境及び水ビジネスの研究と情報収集、コンサルタントに従事し、多くの研究レポートを執筆すると共に講演活動を行なっている。

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