私は1990年に当時の環境庁地球環境部長に就任して以来、25年に亘って、地球環境の悪化とそれをもたらした人間の政治経済、思想面とのからみについて、NPOの立場から提言活動をしてきた。特に地球環境問題についての私の主張を振り返ってみると、ほとんど次の二つに絞られる。
その一つは、気候変動(温暖化)の激化、生物多様性の喪失、化学物質による地球の汚染の拡散などに代表される地球環境の悪化は、ただならぬものがあり、そう遠くない将来、これが人類社会に正真正銘の脅威となることを国連専門機関の各種のデータと私自身の経験から、警告と政策提言をしてきたこと。もう一つは、そのような人類社会への災厄を直視し、人間が持っている知恵と戦略をフル動員して対策を講ずれば、深刻な脅威や災害をある程度緩和できるだけでなく、新しい技術とビジネスを含む今までとは異なる持続可能な経済(私たちはそれを「グリーン経済」と呼んでいるが)を創り出すことが出来ると主張してきたことである。グリーン経済について言えば、現在のように短期の経済成長を追い求め、効率性の向上に全精力を傾けるような経済ではなく、人々に安全と安心をもたらし、人間らしく落ち着いた生活を次世代も享受できるような経済を創れるはずだと信じてやってきた。
日本の環境への関心は「ウィンドウショッピング」のよう
そのような努力を私と仲間は続けてきているが、残念ながら、3.11後の日本の政治や経済社会の動きを見ると、環境問題への関心と意欲がすっかり薄れてきたように思われてならない。昨年9月に報じられたことであるが、内閣府が実施した環境問題に関する世論調査の結果によれば、日本国民の中で、「生物多様性」という言葉を聞いたこともないと回答した人が、過半数の52%に上ったという。この世論調査実施のわずか4年前の2010年には名古屋で一万人以上の参加を得て国連の生物多様性条約会議(COP10 )が大々的に開催されたというのに、この時点で関心を持つどころか、言葉すら聞いたことのない人が5割を超えるとは、驚きであり遺憾である。
驚愕した大学教授
かつて、環境問題に熱心だった大学の講義や講座はどうなっているか。吉田徳久 早稲田大学教授によると、最近の学生の環境問題への関心は潮が引くように引いているとのこと。環境に関する授業は最多時2010年度と比べると受講生が4分の1ほどに減った科目もあるという。吉田教授は結局、
「環境への関心の多くは通りすがりのウインドウショッピングのようです。環境問題の根底に横たわる政治・経済・社会の深層にまで迫らずに関心が薄れていくのを見ていると残念な思いがします。」
と私たちの会報『環境と文明(2015年1月号)』に書いておられる。
環境悪化時代に向けて日本はどこへ向かうのか
もう一つ、驚いたことがある。つい最近、東京工業大学の環境担当の教授から聞いた話であるが、彼の授業に出てきた学部3年生にIPCCという言葉を知っているかと尋ねたら、一人もいなかったということである。この事実を教授が気候変動問題に関するある会議で話をした際には、会場からどよめきが起きた。このような例はいくつ挙げてもキリがないので、この辺で止めておくが、要は、日本のお家芸とも言われた環境力が、どうもここ数年著しく衰退してきたようである。これでもって、近い将来に必ずやってくる環境悪化時代、そして、それへの対応に取り組み始めている世界の主要な国々との競争に日本は、ついて行けるのであろうかという心配である。そのことは、同時に21世紀の国際社会における日本社会の位置取りにも影響を与えることを考えると、私の憂慮は深い。
政府や政治家に対してであれ、一般市民に対してであれ、企業に対してであれ、環境コミュニケーションズの重要性を痛感している今日この頃だけに、本ECOLOGに対する私の期待は大なるものがある。