海外に短期間滞在して感じた私の環境問題意識の変化

オーエスラボ株式会社 代表取締役


 

1. はじめに

日本人の知識人(インテリゲンチャ)は、海外における活動において、自分と同じような知識バックグラウンド、あるいは他の豊富な知識人たちとのコミュニケーショを好む傾向があるように思われます。
特に欧米のリッチャーは環境問題について、自分なりの認識や考え方を持つことが、有効なコミュニケーションを取る上で必須であると評されている本、あるいは評論を読んだことがあります。知識人との接点を増やすことは、自分の見聞を高める上で大切であることは、否定するものではありません。私は、日本人として長年にわたり環境問題に携わって来た者として、前述のような考えを持った人達が欧米で得た情報や認識に基づき、日本で伝える内容が適切かつ賢明なものであるのか、少し疑問を持ちました。そこで、短い期間ですが、私が海外で生活した旅の間に受け止めた事柄について、以下に私信として紹介したいと思います。

 

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2.経済的に不安定な国の一般社会人の環境認識

日本の2017年度の平均失業率は、2.8%となっています(https://www.globalnote)。しかし、15〜24歳までの若年層失業率は4.1%です (http://ec.europa.eu/eurostat)。これをいくつかの先進国と比較すると、イタリアでの前者は11.7%で後者は32.7%、また、フランスでは9.4%と21.8%、スペインでは17.2%と37.9%となっています。ちなみにEU圏における平均失業率は7.3%で、若年層失業率は18.2%となっています。EU圏の平均ならびに若年層失業率は、共に日本より高い数値となっています。特に若年層失業率は大幅に高く、これらの国々が抱える課題は日本とは大きく異なるようです。2018年度統計はまだ明かにされる段階ではありませんが、6月現在における失業率統計は、さらに厳しくなっているようです。特にイタリア、スペインは後者の若年層失業率が高まり、他国へ出稼ぎに行かなくてはならない状況にあるのが現実のようです(2018年6月、スペインのサンディエゴでの聞き取り情報)。

 

3.EU圏の自然エネルギーの利用率と経済成長

観光の途中で目にした多くの風力発電施設が、現地の人達の誇りとして紹介されることは全くありませんでした。日本におけるエネルギー依存度は、圧倒的に炭素エネルギー(石炭、石油、ガス等)が高く80%を越え、自然エネルギー比率は17%に過ぎません。一方、原子力依存に抜きん出たフランスを除き、総体的に他のヨーロッパ諸国では自然エネルギー利用比率が高いことを示しています。ちなみに、ドイツでは約32%、イタリアでは40%、スペインでは37%となっています。なお、北欧のノルウエーでは97%近くが水力に依存しており、お隣のスウェーデンでも60数パーセントが自然ならびに再生エネルギーに依存しているようです。
こうした実態数値を日本で紹介し、日本の自然エネルギーへの取り組みが遅れていることが紹介され、地球環境問題解決に向けた貢献度を高めるための働き掛けが行われています。
ここで、少し飛躍した考えになるかも知れませが、自然エネルギー依存の高い国が、果たして経済的に豊かと言えば、先ほどのイタリアやスペインのように厳しい国も見られます。言い換えれば、自然エネルギーへの取り組みが、雇用機会を産むのに十分に役立ってはいないのではないかという問題も見えてきます。それぞれの国の経済発展は、経済活力を惹起するテーマがあることが必須となります。どうも環境問題解決に向けた経済活動は、当該国の経済を活性化させるものになっていないし、将来においても難しいのではないかと、筆者は危惧しています。

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4.開発途上国の経済発展と環境問題への認識の変化

国連人間環境開発がスウェーデンのストックホルムで開催されたのが、1972(昭和47)年でした。当時は、南北における経済力格差の大きさから、先進国と開発途上国が同じテーブルで、地球環境汚染問題をテーマに議論するに至らなかったようです。途上国リーダーの誰もが、貧困から脱出を急ぎたいと考えていて、大気や水の汚染、ましてや有害化学物質を含む国境を越えての汚染問題について、およそ考えられなかったのが実際だったようです。しかし、ストックホルムの会議から20年後、1992年のリオ・デ・ジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議」(UNCED:United Nations Conference on Environment and Development)では、いくつかの経済発展の形が、自国の環境負荷を高めることを認識したようです。同会議に参加した政府機関や関連NPO組織等が、地球環境資源を効率的に活用し、環境負荷の軽減を図りつつ地球環境資源の活用の在り方を議論しました。このいわゆる『リオ・サミット』では先進国と開発途上国とが同じテーブルに着き、化学物質などによる地球環境負荷の軽減手法の約束事として「アジェンダ21」の同意を見たことは、高く評価される会議だったと言えるでしょう。

 

5.気候変動枠組み条約の成立と地球環境問題

このリオ・サミットの2年前の1990年の10、11月に、ジュネーブで第2回世界気候会議(SWCC:Second World Climate Conference)が開催されています。そして、同年12月には気候変動枠組条約交渉会議が開かれ、リオ・サミットの年(1992年)に気候変動枠組条約(UNFCCC)が採択されました。
今日では、環境汚染と気候変動に関する問題は、地球環境問題として同列に認識されています。気候変動については、私たちは1997年の京都議定書の成立とその実施年である2008〜2012年の5年間、そして2015年12月のパリ協定成立と翌年の協定の発効について、記憶に新しいところです。

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6.気候変動災害への認識の高まりより経済問題が優先する社会の深刻度

近年、私たちは台風の巨大化や、また頻度高い豪雨の経験、さらには強風、突風・竜巻などの頻発を実際に体験するに至っています。改めてこうした気象現象の頻度が高いことが挙げられれば、明かに気候変動が現実のものになってきていると、誰もが受けとめられると思われます。
しかし、どうでしょうか。2項で紹介したように、生活が立ち行かなくなるほどに経済的に追い詰められている人々が増加している国々、また、実際にそうした状況に置かれている個人に、気候変動の深刻さを説いても、自身の生活を成り立たせるのが先であると受け流されるのが現実ではないでしょうか。ヨーロッパ圏の多くの国々の、自然エネルギー利用率の高さは望ましい事実ではありますが、一方で、職がない、家族を養える収入を得ることが難しい、より高い報酬を求めて海外に出稼ぎに出る、と言う現実はどうでしょうか。先進国と言われる国々がこうした状態に置かれていることと、地球環境問題を結びつけて議論できる状況にあると言えるでしょうか。
先進国でさえこうですから、途上国の人々は、地球環境問題を深刻に受け止め、その阻止のための活動をどの程度期待できるのでしょうか。

 

7.井の中の蛙、日本と日本人

国際化した地球を認識することは比較的容易です。街でいろいろな人々と容易に顔を合わせることのできる私たち。そして人の移動や物流、インベーダー動物の増加など、国境がなくなりつつあることの実感ができても、地球環境問題の改善に向けた動きとこうした現象をどう結びつけるのか、しっかり受け止めてお話しできる一般人は極めて少ないと私は考えます。外国の人々に、“あなたは何故、語学留学に来たのですか”と質問すると、多くの若者の答えは“現職場での地位向上”あるいは“より報酬の良い職場への転職”と言った答えが帰ってきます。つまり、生活を経済的に豊かしたいと望んでいる人達が圧倒的に多いのです。だからと言って、環境問題への認識がないわけではありません。しかし彼らの認識が、今私達が直面している気候変動災害や、あるいは環境汚染問題の改善へ結びつくか、極めて弱い力と言わざるを得ないと私は感じました。
日本の過去の公害の歴史から考えても、それは一目瞭然です。生活の安定、次に環境問題への関心と移ってきた訳ですから。世界の動きが一致できる環境条件(この場合は経済的安定)の構築が急がれます。
気候変動による地球環境問題を強く主張しても、現実的な生活が立ち行かないのでは説得力を欠くことは想像できます。この課題は、大きな危機だと思いました。

 

8.欧州が抱える大きな2つの課題

以上の事柄に加え、欧州はシンゲン協定(国境検査の廃止規定)と紛争地域からの多くの難民移流問題により、EU圏の国々の労働(就労)環境が大きく変化して来ています。シンゲン協定で、元々EU圏に住んでいた人々は移動が容易になったものの、国境検査の簡易化でテロリストからのリスクの上昇。さらに、難民と仕事の奪い合いが起こる事などで、失業率が増えこそあれ、減ることはないという問題も発生しています。故に、国際語である英語の習得により、仕事機会を増やそうとする動きが活発なことです。同じEU圏の国でも経済的格差があることで、むしろ富裕層の観光地巡りの増加が期待できる国もあるようです。一つの事例として、ポルトガルは今活気づきつつあるようです。リスボンにおける都市の改善工事の増加は、この現れであるようです。また、地中海の小国であるマルタ共和国などは、バブル景気となり、多くの外国人が職探しに流入し、また富裕層の観光客も増えている状況です。経済に活気のある国、力強さを感じられない国、様々なようです。
日本国内では、およそ感じられない世界を知るには、国を飛び出して直にふれ合い知ることが大切だと感じました。

この記事の著者
谷 學

谷 學

オーエスラボ株式会社 代表取締役
環境事業支援コンサルタント・経営士・環境経営士。元グリーンブルー株式会社代表取締役。日本の公害対策の草創期より環境測定分析の技術者として、環境計量証明事業所の経営者として、環境汚染の改善及び業界の発展のために邁進。2007年には経済産業大臣より計量関係功労者表彰を、2013年には経営者「環境力」大賞を受彰。50年にわたる環境問題への取組み実績を持つオピニオンリーダー。

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