グリーン・イノベーションとソーシャル・イノベーションの同時改革を!!
「現在の日本の地球環境問題への取り組み方に強い危機感を抱き、警鐘を鳴らさなければならない。」今回のECOLOG(エコログ)インタビューでは環境経営やエコデザインの提唱、エコプロダクツやグリーン購入など我が国の環境問題の解決にリーダーシップをとってきた山本良一氏に話を伺った。
山本良一 氏略歴
1946年、茨城県水戸市生まれ 1988年から東京大学先端科学技術センター教授。1992年に東京大学生産技術研究所教授。 2001年、東京大学国際・産学共同研究センターのセンター長に就任。2011年より東京都市大学教授に現任。 専門は材料科学、持続可能製品開発論、エコデザイン学。エコマテリアル・フォーラム名誉会長、環境経営学会会長、環境プランニング学会会長、日本LCA学会会長、LCA日本フォーラム会長、環境効率フォーラム会長、国際グリーン購入ネットワーク会長、エコプロダクツ展示会実行委員長、北京大学、清華大学など中国の33の客員教授を歴任している。
日本の地球環境への認識は遅れている
−−日本の地球環境への取り組みをどのように考えておられますか?
山本:この20年くらいを見ると、地球環境への取り組みは初歩的な段階が終わって、いよいよ本格的な段階に今、入ろうとしていると、私は考えています。もし、企業が我が社の環境対策や環境マネジメント、CSR(企業の社会的責任)は終わりましたとか、もう十分やっているという認識を持っているとすればそれは大変な誤りで、これから本格的な段階に入っていくと考えるべきだと思っています。
1970年代の、環境関連法案が議論された、いわゆる公害国会から始まって、今はグローバルな地球環境問題になっている。その間行われてきたのが環境対策や、環境マネジメント、環境製品の普及です。ここまでは、エコロジカル近代化という世界的な流れの中の第1章が終わったということを意味しています。だから、21世紀に入って、我々は全面的に考えを変えなければいけないところへ来ているのです。
−−それでは今、求められる認識とはなんでしょうか?
山本:20世紀型の工業文明を継続すれば絶対的に破産するという認識を、欧米や知識人や科学者は持ち始めています。われわれの文明の基盤である地球生態系が非常な危機を迎えている。20世紀型の工業文明が地球表面に広がり過ぎて、今、本当に地球の限界に激突するところに来ている。
限界が近いことを示すものの1つに、NPP(ネット・プライマリー・プロダクション)※1 というものの量が人工衛星観測によると、この10年ぐらいほとんど増えていないということがあります。世界全体のNPPがほとんど変わらないということは、いずれわれわれは限界にぶつかるわけで、その余裕はもう10%ぐらいしかないといわれています。
1970年代に『成長の限界』という本が出版されてかなり関心を高めたけれども、ここへ来て、本当の意味の成長の限界というか地球の限界に直面しているのです。だから、まず第1の認識としてそういう認識を持たないといけない。
−−第2は?
山本:この50年くらいサイエンスが進歩して、宇宙の理解が深まり、生命への認識が変わりました。われわれが奇跡の惑星・地球に存在している幸運にも気づいた。そして、インフレーション宇宙の直後の原始重力波の観測ができるとか、人間の遺伝子の解析を全部済ませたとかいう段階まできた人類文明です。
この人類文明と地球生態系をいかに今後1000年、2000年、1万年と将来の世代につないでいかれるかという、まさにこの人類文明と地球生態系の両方の永続が最大の課題なのです。
−−日本にはこの2つの認識が欠けているとお考えですか?
山本:例えば地球温暖化の問題についていえば、日本はエネルギー政策を決められない、気候政策も決められない、新聞のニュースを見ても、再生可能エネルギーの買取価格の問題で大騒ぎをいるでしょう。右往左往するっていうのは、絶対的な物差しがないからです。
長期的にわれわれはどういうふうな行動をすれば地球生態系と人類文明の永続に寄与するかという長期的、絶対的な視点が日本の議論にはない、だから右往左往するわけです。
欧米はもうそこを見ています。日本人は物事を本当にマクロに長期的に考えなきゃいけないわけですよ。それがわが日本民族の最も弱いところです。
−−弱点をどう克服していけばよいでしょう?
山本:これからは個人にしろ組織にしろ企業にしろすべてが、人類文明と地球生態系の永続という長期的な視点から、自分は今どういう立場にあり、自分の会社はこういう状況にあるということを発言していかなくてはならない。それによって評価するというふうに社会は確実に変わると思います。
危機はそこにある
−−日本は、環境とかエコに関してよくやっているのではないかと思いますが、それは自己満足でしょうか?
山本:例えば3Rとかマイ箸とか、あるいはマイバッグ運動とか、また、クールビズ、ウォームビズなどもやっています。行動している、実践されていることは高く評価されてよいと思います。けれど、現実はそれで済むわけじゃないんです。
なぜなら、1日に全世界から放出されている化石燃料由来のCO2はもう1億トンなんです。毎日、毎日地球温暖化により膨大な熱エネルギーが地球表面に蓄積されています。
そのうちの90%は海に吸収されます。その海に吸収される熱エネルギーは、1日で広島型原爆の爆発エネルギーのなんと40万発分。1秒に広島型原爆が4つ爆発したくらいのエネルギーが地球の海に吸収されている。その熱エネルギーが結局は異常気象を引き起こしていて、氷河を溶かして海面水位の上昇も起こる。島が沈むということがもう現実化していて、パプアニューギニアでは移住が始まっているわけだからね。
−−日本はどうすべきと?
山本:私は明確に地球は「温暖化地獄に突入した」と言ってるわけだけども、そう言っても誰も恐怖心を感じないんだよ。想像力が乏しいんだ、わが民族は。
何が起こるか予想できない。だから、今地球上では環境生命文明というかエコ文明への転換に全知全能を傾けて戦っているということを認識できない。あるいは、夢を実現しようというところがまったく今の日本の社会からは失われていると感じています
求められる企業、市民の役割とは
−−転換期に当たって日本の企業、市民の役割についてどのように考えていらっしゃいますか?
山本:私は、幕末で考えると分かりやすいと思うんです。今の21世紀を19世紀末の状況で言うと、徳川幕府の幕藩体制を維持しながら天皇制という公武合体派は、21世紀では工業文明を維持しながらエコ文明に転換するという考えの人たちです。一方武力倒幕派はまさにエコ文明改革派です。
エコ文明改革派は、化石燃料はもうゼロにしないといけないと主張する。先進国は2050年までに公式に言っているだけでも8割削減と言われていますが、それをすっぱりゼロにするという。
つまり欧米は武力倒幕派が主流です。工業文明、経済成長一本やりのこの路線を倒さない限りエコ文明へ行かれないという考えになりつつある。日本にも「その覚悟があるんですか」というところが問われています。
−−日本はどうなのでしょうか?
山本:武力倒幕派がまだほとんどいないんだよ。危機感がないし、武力倒幕派と公武合体派の区別もない。評論家を始め、学者も公武合体派です。
欧米は地球の限界がよくわかってきたから、国民にもそれを知らせる。このままいったら、2℃突破はもうあと数十年以内です。2℃突破すれば温暖化地獄です。
−−日本にはエコ文明改革派はいないのでしょうか?
山本:企業グループの中でも、今そういう考えに変わりつつある。幕末でいえば先覚者が現れています。例えば英国のCDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)というのがあります。わが社はどういう温暖化対策をやっているか、それを情報公開しているかが問われる。2014年には日産自動車や東芝などが表彰されています。
国際的にエシカル企業の表彰制度もあって、2014年は買おうとか損保ジャパン、資生堂といったところが選ばれています。
エシカルというのは、地球温暖化防止のためにCO2排出削減をしたり廃棄物のリサイクルをすると同時に、少子高齢化への対応やユニバーサルデザイン、貧困などの問題も環境保全としてとらえる。私は環境未来都市作りは福祉的配慮と同軸でやれと言っています。
「ゼロノーツ」という言葉もあります。「ゼロノーツ」はゼロ飛行士ということで、化石燃料起源のCO2排出をゼロにする、廃棄物をゼロにする、貧困をゼロにする、そういうマネジメントをやっていく個人あるいは企業をゼロノーツという。アメリカにもかなりゼロノーツが現れているんですが、例えば日本はソニーがゼロノーツを目指している。ブリヂストンとかホンダもそうですね。そういう尖閣的な企業が日本でも現れ始めています。そういう企業がいかに社会をリードして国論を形成していくかが、今、問われていると言えます。
持続可能な社会実現のために
−−日本のとるべき対策はなんでしょうか?
山本:2年前にリオ+20(国連持続可能な開発会議)で世界が合意しているのは、環境問題を社会的な問題と同時に解決するということです。
ところがそれも日本では、環境問題には取り組むんだけど、貧困問題とか、人権問題とか、労働問題には触れようとはしない。これは大きな問題です。そういう意味で私は、グリーン・イノベーションとソーシャル・イノベーションを同時にやらなくちゃいけないと言っているわけです。
今、日本の社会には2つの方向があって、1つはエコタウン、環境未来都市という流れ。もう一つは福祉都市宣言とかフェアトレードダウンといった福祉的な動きです。私は、その両方を一緒にした「エシカルタウン」を言いたい。まず、東京が真っ先にエシカルタウンの見本を示して、いろんなソーシャルビジネスを興していく。2020年の東京オリンピック・パラリンピックをエシカル五輪に、と提言している。
東京がエシカルタウンというオリンピックレガシーを残せるようになれば、世界に対するメッセージになるんじゃないかと考えています。