磐城造林(株)の概要
磐城造林(株)は、東北の玄関口である福島県いわき市の南部に位置し明治44年2月に創業した今年で102年目になる会社です。
地域水源の維持や治山等を目的として社有林を主とした造林事業会社としてスタートしました。その社有林は、いわき市田人町の茨城県と接したところにあり一団地で763haあります。社有林内を地域の水源である鮫川の支流、四時川が流れています。
1905年から高度経済成長期まで いわき市には常磐炭田があり、坑木などの需要が高まる中、さらに拡大造林が行われ社有林の人工林化も進められたことで社有林面積763haのうち約600ha(約80%)が主にスギ、ヒノキなどの人工林となっています。
その人工林において森林経営計画(旧、森林施業計画)の下、植林⇒下刈⇒除伐枝打ち⇒間伐⇒皆伐と施業をし循環的な造林・育林事業、森林管理を行ってきました。
しかし、昭和55年以降からの材価の低迷、さらに昨今では2008年のリーマンショックに端を発する また、高性能林業機械の導入などによりできる限りの低コスト化・効率化を常に心がけ事業の継続に努めいます。
その社有林の森林整備は、水源の涵養、治山、生物の多様性、学習・文化レクレーション、地球温暖化対策など森林生態系の持つ多様な機能を創り・維持するのにたいへん大きな役割を担っています。
筆者:ECOLOGライター(磐城造林(株) 代表取締役 小野勝史)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年5月号)」より再編集して掲載しています。)
FSC森林管理認証取得への取組み
6、7年前ごろにFSC森林管理認証という制度があることを知り、低迷を続ける森林経営の改善の起爆剤とならないか検討を始めました。当社の育林・造林事業における施業の体系化、地域社会への社有林(森林認証林として)の役割の訴求、高齢化の進む作業の担い手へ若者を呼込むきっかけとしての効果を期待しました。
そして、当然ですが認証材として当社製品(丸太、製材品)の差別化をすることはできないかと考え調べている中、県内の取引先よりFSC材を供給してほしいとの要望もあり取得へ向け取り組むことになりました。そして、厳しい審査の末平成21年1月に森林認証(FM)を取得しました。
FSC森林認証を取得し、5年目になりました。認証林として、施業時には自然環境や生物の多様性に配慮し、特定樹種を保護したり、特定水系においては5m以内ではできる限り環境を保護するなど作業上のルールを決め行っています。
また、森林整備を循環的に行うことで育まれる生物との出会いや森林の生態系の多様性を大切にしています。しかし、丸太でのFSC材としてアピールや同時取得したCOCでの製材工場(現在は、製材事業は停止)からの加工流通など試みましたが、経済的な目的にはほど遠い結果となっています。今後もFSC森林認証の活用方法を模索し続けることになります。
オフセット・クレジット(J-VER)プロジェクトへの取組み
このように厳しい環境が続く中、J-VERへ取り組むきかっけは、2009年4月ごろ森林で吸収されるCO2がクレジット化できそれを販売できるようになるということを知り、それがJ-VERであることがわかりました。
これまで、京都議定書の目標達成計画へ森林吸収量1,300万炭素トン、削減目標6%のうち3.8%へ国内CO2の森林吸収量は織り込み済みのためクレジット化での売買はできないものとあきらめていたため、クレジット化しこれを販売、森林整備に再投資できること、そして温暖化の原因である温室効果ガスCO2の吸収を促進し地球の温暖化防止ができるすばらしい事業であることがわかった時は、一筋の光明を見た思いでした。
それから、J-VERを選んだ大きな理由に発行されるクレジットの信頼性がありました。環境省の取組みということはもちろんですが、温室効果ガスに関するISO14065の認定機関によって厳しく検証が行われることに因ります。J-VERの森林吸収プロジェクトには3つのプロジェクトがあり、R001の『間伐促進型プロジェクト』、R002が『持続可能な森林経営促進型プロジェクト』、そしてR003が『植林プロジェクト』です。
その中でR00『2持続可能な森林経営促進型プロジェクト』に取組むことにしました。これは、森林施業計画を作成し長年にわたり森林整備を行ってきた当社にとってはこのプロジェクトがもっとも適しており、CO2吸収のクレジット化もより多くできると考えたからです。
そこで、まだ社内で馴染みのなかったCO2のクレジット化ということを発行予定量、かかる経費、発行された場合のクレジット収益などを内部に説明・提案しプロジェクトに取り組むことになったのです。そこでまずは、R002の場合1990年以降の植林、間伐、主伐が対象となるためその施業箇所、測量図面、伐採届、補助金関係の資料などのデータを整理することから始めました。
この作業はとんでもなく困難を要する作業となりました。あとで知ったのですが、R002の登録・認証はとても貴重で稀であるということでした。そして、先輩方の協力もあり何とか整理可能なものとして2000年まで遡れることができプロジェクトの対照面積は約400haぐらいであることが判明したのです。
このJ-VERプロジェクトの作業を進めるに当たり零細民間企業である当社の山林部は当時12人ぐらいいましたが高齢化が進み平均年齢は65歳ぐらい、妥当性確認までの作業はたいへん苦労していました。そこで、J-VERの支援事業で東日本を担当していた三菱総合研究所の岩田さんに出会いました。妥当性確認におけるプロジェクト計画書、モニタリング計画書のチェックなどこちらからの問合せや提出した添付データに対して詳細にそしてていねいにすばやく対応していただきました。
メールや電話のやり取りで何度も修正してはメールで送信、そしてまた修正を繰り返しました。熱心に、的確に対応してくれた岩田さんにはたいへん感謝しています。その甲斐あって妥当性確認は大量のデータを整理しプロジェクト計画書、モニタリング計画書などを作成することができ、妥当性確認機関のSGSジャパンの審査を受け何とか平成22年12月22日にドタバタしながらもプロジェクト登録となりました。それからがさらにたいへんでした。
翌年3月11日、とてものどかな春らしい日でした。しかし14時46分、私は山林事務所へ向う途中でしたが、あの東日本大震災が起きたのです。アクセス林道は寸断され、社有林内の作業道路、林地も多々被災し、余震も続きました。そしていわき市は4月11~12日に大きな余震がありインフラの寸断、燃料の供給不足などで約2カ月はまともに作業できませんでした。
さらに、福島県は福島第一原子力発電所の地震・津波に伴う大事故が起こり放射能汚染問題となっています。この問題はいまだ解決せず森林汚染などの風評被害もあ り木材価格、森林の資産価値、その他林産物の価値へ影響を与えています。
それ以外にも製材工場で火災が起き会社存続の危機になりJ-VERの認証作業は遅れるばかりでクレジットの発行は無理ではないかと思うようになった時期もありました。しかし、三菱総合研究所やモニタリングの測量作業を行ってくれた福島県森林組合連合会などの支援もあり平成24年春にはゴールが見えるところまできたのです。
モニタリングの測量作業には苦労しました。造林補助事業での測量図面は全体の約2/5が利用できましたが残りの3/5の約250haは新たな測量作業が必要でした。測量作業は平成23年の10月から開始しましたが、翌年の4月までかかりました。
その後は、検証の審査の準備を行い、検証機関のSGSジャパンにて検証の審査が完了したのが平成24年6月末、その後SGSジャパンで検証結果をまとめ8月に気候変動対策認証センターのJ-VER事務局へ提出され、これでやっと10月の委員会にて審査されることになったのです。
そして、平成24年10月10日の委員会で審査・認証され磐城造林の社有林において吸収したCO2の吸収量がクレジット化できることになったのです。発行クレジット量は、10,666t-CO(2バッファ分含む)です。作業を開始してから2年以上経っていました。事業費については、環境省のプロジェクト支援事業があることを知り応募、妥当性確認、モニタリング、検証での支援が採択されました。
ほとんどこの支援事業を利用できたため、もっともかかったモニタリングで多少かかったくらいで済みました。この支援事業を利用できたことはこの事業を達成するためにはたいへん大きかったと思っています。
昨年10月にクレジット化され間もないですが、被災地産クレジットということでの需要をいただき今のところはオフセットプロバイダーへの販売となっています。平成25年4月時点での販売状況は2社に対して販売され562t-CO2を利用していただいています。
今後は、まず地域でより多くオフセットしていただけるよう活動していくこと、そしてこのクレジットを通じ都市部とも連携しオフセットに利用していただくことで森林整備の重要性を伝えていきたいと思っています。
このクレジットの販売収益は、現状木材の収益だけでは森林整備は困難なため、社有林の森林整備に再投資し、さらに循環的森林整備を持続させることで温室効果ガスCO2の吸収を促進し地球温暖化の防止を推進できると考えています。また、このことが地域の雇用の維持、森林生態系の多様性の維持へつながっていくと考えています。
平成25年4月よりオフセット・クレジット(J-VER)と国内クレジットとが統合されJクレジットなりました。Jクレジットになりもっとも大きく変わったと感じたことは、クレジットの有効期限ができたことで、2020年度末までとなりました。このことは価格に影響があると考えています。
しかし、今回の統合によって、国内における温室効果ガス排出削減・吸収量のクレジット環境が整備され、国内で周知されていくことでクレジットの利用もより広がっていくと思っています。
今後は新クレジット制度、他の排出権クレジットの動向を把握しながら、この制度が充実していくことを見守っていきたいと思います。そして、森林整備への意欲・関心が持たれることのきっかけとなっていくことを期待しています。