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2016.06.09

USA 発サステナブル社会への道~USA 発サステナブル社会への道~NY から見たアメリカ最新事情~第1 回 米企業・自治体のサステナビリティに関する取り組み


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グローバルネット296 号(2015 月)
地球・人間環境フォーラム発行連載
USA 発サステナブル社会への道~NY から見たアメリカ最新事情~
米企業・自治体のサステナビリティに関する取り組み
FBC サステナブル・ソリューションズ代表 田中 めぐみ

 

近年、環境破壊などの社会的課題を解決し、持続可能な社会の構築を目指す中で、社会的責任をめぐる企業やそのステークホルダーの取り組みが世界的に広がり、多くの企業が利益追求だけでなく、社会貢献や情報公開などの取り組みを模索しているが、米国においてもさまざまな取り組みが始まっている。本連載では、サステナブルビジネスに詳しく、「サステナビリティ」がテーマの著書・訳書の多いニューヨーク在住の田中めぐみさんに、現地の最新のサステナビリティ事情を紹介していただく。

 
近年米国では自然災害の頻度・規模が増している(下図)。国土が大きいため、洪水、干ばつ、台風、山火事、熱波、寒波、豪雨、ひょう、土砂崩れと、地域により多種多様な気象災害が起こっており、災害報道のない日が珍しいほどである。異常気象と温暖化の関係に関しては議論があるものの、現実問題として人びとの危機感が高まっている。そのため、これまではイメージ向上やコスト削減策としてサステナビリティに取り組む企業や自治体が多く見受けられたが、現在では不可欠な対策、必要なコストと捉えられるようになっている。
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深刻化する水問題、米企業・自治体の対応

とくに水問題は深刻である。2012 年には大型台風サンディによる洪水とそれに伴う停電などでニューヨーク市は 190 億ドルもの経済損失を負い、都市の脆弱さが露呈した。カリフォルニア州では年にわたり歴史的な干ばつが続いており、同州農畜産業における2014年の経済損失は 22 億ドルに上った。

ワシントン州でも山岳部の積雪量が史上最低となり、月に緊急干ばつ宣言を発令。テキサス州では、数年にわたる干ばつでトウモロコシや小麦など主要穀物の生産量が減少し食品価格が上昇していたが、今年 月には一転、豪雨による洪水に見舞われた。干ばつは解消したものの、作物はすべて水没する事態となった。
各都市は、海水の淡水化や下水の飲料水化、建築基準の改定や湿地の保全など水災害の回復力強化に奔走している。連邦政府も水インフラの財政支援策を強化しており、今後PPP(官民連携)による大型プロジェクトの増加が予想される。
 
水使用量の多い食品・飲料メーカーは以前から節水に取り組んでいたが、深刻化する水不足により非営利団体やメディアから事業自体の必要性を問われ始めている。今年 月には、スターバックスがボトル水工場の業務をカリフォルニアから州外に移管するなど、気候変動が事業に与える影響は大きくなっている。
さらに水使用量が多い農畜産業においては、業界自らが効率化や水保全に努めているほか、IT・化学・農機メーカーなどがビッグデータを駆使した精密農業の開発に取り組み、干ばつ被害のない州や自治体が都市農業を促進して食料自給を強化するなど各セクターで対策が進められている。

 

 

サプライチェーン全体の責任

企業においては、国内だけでなく海外生産地を含めたサプライチェーン全体での対策が急務となっている。

カリフォルニア州では、2012 年にサプライチェーン透明法が施行され、同州内で事業を行う大規模小売・製造業は、サプライチェーン全体における強制労働排除の取り組みの開示が必須となった。現状では法の施行は同州のみだが、他州で事業を行う企業も対応に追われている。
米国では資金力のある非営利団体(NPO)が多いため、専門家を登用して環境・社会問題に関する綿密な調査を行い、それに基づき企業や政府を相手に頻繁に訴訟や要請を起こす。それをメディアが報道することで消費者の不買運動などにつながるため、法の有無に関わらず、企業の対策は不可避となる。途上国生産地のサプライヤーの問題であっても発注側の企業の責任とみなされるため、とくに批判対象とされやすい大企業はサプライチェーン全体における労働・環境基準の設定と、遵守状況の監査が必須となる。
 
2013 年に起こったバングラデシュの縫製工場倒壊事故では、発注側の米アパレル・フットウェア企業が厳しく非難され、現在業界は対応に追われている。NPO セリーズ(Ceresの調査によると、これまでに基準を設定した同業界大手は 80%弱、監査機能を構築した企業は64%に達している。

 

 

セクターの垣根を越えた協業

環境・社会問題は往々にして個々の組織で取り組むには複雑かつ大き過ぎるため、競合他社、自治体、NPO、教育機関など業界やセクターの垣根を越えて利害関係者が協業で対策に当たることが多い。
食品・飲料業界では、度重なる不祥事により消費者が原料や生産工程の開示を求めるようになっており、対策を迫られている。マクドナルドやカーギル、ウォルマートなど大手食品メーカー・小売企業は、WWF やレインフォレスト・アライアンスなどのNPO と手を組み、牛肉生産のサステナブル化に取り組み始めた。畜産時の環境負荷削減、労働問題対策、家畜の人道的な取り扱い、牛肉の安全性確保など生産工程全体を包括的に見直し、信頼性の回復に努めている。
自治体と企業の協業も増えている。水や交通インフラなどの大規模事業から、自転車シェアリングなど比較的小規模なものまで、公共事業における開発・運営・資金調達を経験豊富な民間事業者に任せ効率化を図るケースが多い。利潤追求を第一に考える企業と社会便益を重視する自治体との意識差の是正が課題だが、成功事例は増えている。
格差是正や地域経済復興など社会問題対策に企業が力を発揮することもある。オーガニックスーパーのホールフーズは、ニューオリンズやデトロイトなど貧困層の多い地域にあえて出店し、地域活性化や貧困層の食生活改善に貢献している。自治体に先駆けて最低賃金引き上げを実施し、格差是正を牽引する企業も少なくない。
有限資源から無限の成長を生み出そうとする現在の資本主義社会は持続可能とは言い難い。そのモデルを究極まで突き詰めた米国だからこそ、天災や人災として社会の膿が表出し、問題意識が高まっているのだろう。規制を最小限に抑えて自由を追求する米国が、どのようにして人類全体の環境・社会問題の解決を図るのか、日本の参考になることは多いだろう。
この記事の著者
田中 めぐみ

田中 めぐみ

慶應義塾大学商学部卒業後、経営コンサルティング会社アクセンチュア勤務を経て渡米。ニューヨーク州立ファッション工科大学卒業後、米国にて起 業。米小売・ファッション市場の調査・コンサルティングを手掛けるが、次第に大量消費社会に疑問を感じ、サステイナビリティの必要性に目覚める。 以来、環境・社会問題を調査研究し持続可能な社会の実現に向けて取り組む。ハーバード大学エグゼクティブエデュケーション サステナビリティリーダーシップ修了。米ニューヨーク在住。著書『サスティナブルシティ ニューヨーク』『グリーンファッション入門』(繊研新聞社)、共著書『エコデザイン』(東京大学出版会)、訳書『ターゲット』(商業界)。

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