地方自治体
2015.12.31

世界遺産“白神山地”山麓のJ-VERプロジェクト


八峰町の紹介

八峰町は秋田県の西北部に位置し、東は世界自然遺産「白神山地」、西は日本海、南は秋田県能代市、北は青森県西津軽郡深浦町、となっており、 白神山地を源に清流が日本海に注いでいる自然豊かな町です。

町の総面積は23,419haで、そのうちの約80%を森林で占めており、民有林が14,589haの55%に当たる8,197haが人工林となっています。 町の人口は8,153人(2014年4月末現在、住民基本台帳)で、主産業は農業と漁業の第一次産業で、とくに漁業は、秋田音頭に唄われる「秋田名物、八森ハタハタ・・・」のとおり、ハタハタの産地となっています。

筆者:ECOLOGライター(秋田県 木藤 誠)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年7月号)」より再編集して掲載しています。)

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http://www.town.happou.akita.jp/docs/2015090200054/

 

八峰町のJ-VERプロジェクトについて

八峰町では人工林の多くをスギが占めており、町が所有する町有林もスギの人工林が多く存在します。 これまでも、地元の森林組合に協力をもらい、森林施業計画を立て、間伐や除伐、枝打ち、下刈りなどの森林施業を計画的に行ってきました。

また、2008年度からは秋田県で行っている「水と緑の森づくり税」を活用した、スギと広葉樹の混交林化事業にも取り組んできています。 これは、標高が高い場所や生育の芳しくないスギ人工林における間伐率を、通常よりも高めに設定(30%→40%)し、スギ人工林内において、自然萌芽による広葉樹の生育を促そうとしているものです。

こういった森林施業を行いながら、森林の適切な保護を進めてきたところ、秋田県が県有林でモデル的に進めていたJ-VERプロジェクトに取り組んでみませんか、と秋田県森林整備課の担当者から打診を受け、 庁内で検討し、2010年7月にJ-VERプロジェクトを始めることとなりました。

環境省の認証を受け、クレジットの取得が2011年5月末に完了し、3,373t-CO2のクレジット販売を始め、現在は636t-CO2を販売することができ、購入いただいた企業様には、 町存林の間伐材で作った「証」を贈っています。

残クレジット量の販売についても、機会を設けて首都圏などの企業訪問を行い、販売活動を進めてきているところです。 販売収益については、町が設置する「八峰町自然再生基金」に積み立て、そこから必要経費を充当して、地球温暖化防止と自然再生につながることを目的とした各種事業を行っています。 これは、購入していただく企業(顧客)に対して、町がどのような事業に活用しているのかをわかりやすくする目的もあります。

 

J-VERクレジット販売活動と収益金活用事業について

八峰町ではクレジット販売に当たって町のホームページに「八峰町有林J-VER」のバナーを置き、そのバナーからJ-VERプロジェクトのページへリンクするようにしています。 ページはごく簡単なものですが、プロジェクトの目的などを簡単に紹介しながら、町で定めたクレジットの販売要綱、購入申込様式のダウンロード、購入していただいた企業と数量の公表、 販売可能クレジットの残量のお知らせなどを行っています。

また、「カーボンマーケットEXPO」や各地域協議会が主催するマッチングイベントなどに出展し、プロジェクトのPR活動を展開してきています。 この場では、八峰町のブースに来場いただいた企業の方々との情報交換を行いますが、その情報交換から得られる企業ニーズを、プロジェクト推進につながる施策立案に活かすこともあります。

先に述べた、基金方式の収益金管理・活用は、企業担当者様との情報交換がもとになりました。 この他、年に数回、東京都内をはじめとして首都圏の企業を訪問し、クレジットの販売営業活動を行っています。 実際に企業に足を運ぶことによって、企業の環境に対する取組みを知ることにもなり、また、カーボン・オフセットが企業にどれだけ認知されているのか、ということを知ることにもなっています。

町の限られた予算の中ではありますが、今後さらにクレジットを販売していくためには、ホームページなどの「待ち」の姿勢ではなく、訪問などの「攻め」の姿勢で取り組んでいきたいと考えているところです。

収益金を活用した事業については、八峰町では現在、「エコ・アクション・ポイント事業」「未利用間伐材資源活用促進支援事業」「企業の森づくり支援事業」の3つに取り組んでいます。

一つ目のエコ・アクション・ポイント事業は、生活の中で排出される温室効果ガス(CO2)を、エコ活動の実践で減らしていく取組みです。

町では、地産地消の推進として産直施設での買物や、地元食材を活かした食事メニューの消費、エコ活動実践として使用電力の削減やLED電球等の購入、 環境保護として植樹イベントやクリーンアップ活動の参加などをエコアクション活動に指定し、それぞれの活動にポイント付与して、ポイントが貯まったカードを商品券として、町内の産直等で使えるようにしています。普段の生活での 「ちょっとした工夫」がCO2削減につながります。

二つ目の未利用間伐材資源活用促進支援事業は、スギ林や広葉樹林において間伐を実施することによって発生する材を、市場まで運搬するための経費を補助することを目的としています。

山主にとっては、運搬等の経費を抑えることにより、収入を少しでも多くすることがメリットになりますが、町では、住民の間伐実施意欲を高めることと、森林の間伐によって樹の生長が促されることにより、 温室効果ガスの吸収促進につながることで、温暖化防止に寄与できるものと考えています。

また、ナラ林など広葉樹林では、高齢級になった森林を間伐で更新して若返りを図ることで、ナラ枯れ被害などの病害虫から森林を守ることにもつながると考えています。 三つ目の企業の森づくり支援事業は、以前、町有林の立木販売を行った皆伐跡地を無償で貸し出し、企業のCSR活動等で行う植樹活動について、地元の林業者や植樹ボランティア団体と企業を結び付け、 活動費用を助成しています。

具体的には、林業者などが行う作業指導に対して、その費用を手数料としてお支払しています。 皆伐跡地に新たに植樹を行うため、森林機能の再生と、温室効果ガスの吸収促進につながることになります。

 

企業におけるJ-VERクレジット活用の事例

ここでは、八峰町のJ-VERクレジットを購入していただいた企業がどんな形でクレジットを活用したのかについて紹介します。

①秋田銀行
秋田銀行はこれまでにも他のプロジェクトからJ-VERクレジットを購入している事例もあるなど、秋田県内ではJ-VERクレジットの活用がもっとも図られている企業です。 具体的には、行員の名刺印刷で発生するCO2のオフセットに活用したり、各支店窓口やATMで使用している現金封筒の印刷で発生するCO2のオフセットに、クレジット活用を進めています。

一昨年、八峰町のJ-VERクレジットを購入していただき、同行の企業CSRレポート(報告書)の印刷で発生するCO2のオフセットを実施しました。また、同行は「あきぎん森づくり活動」に取り組んでおり、昨年町有林の皆伐跡地を活用して0.3haの面積にブナの植樹を、行員とその家族で実施しました。 この事業は3年間実施する予定であることから、全部で約1ha植栽と手入れ作業を実施することになっています。

植樹指導など地元NPO団体の協力にかかる費用の一部を、J-VERクレジット販売収益金から助成しています。

②秋田グリーンメンテナンス
同社は芝生などの緑化事業を主に取り組んでいる企業です。 芝生事業などで使用している重機やその回送用車輌(トレーラーなど)の化石燃料使用により発生するCO2を、八峰町のJ-VERクレジット購入でオフセットしました。

各車輌にはカーボン・オフセットを実施していることを周知するステッカーを貼り付け、取組みを幅広く周知してもらえるようにしています。町としては、同社の購入をきっかけに、今後町内の建設、土木事業者等でも活用してもらえることに期待しています。

 

オフセット付商品の開発

昨年、地元の特産品とJ-VERクレジットを組み合わせた商品を開発しました。 これは、環境省の「地方発カーボン・オフセット認証取得支援事業」を活用した事業ですが、八峰町沖の海水を汲み上げ、 林地残材等を燃料にしたボイラーで煮沸して製造されている「八峰白神の塩」(この商品の製造自体、化石燃料等を使っていないエコな取組みといえます)に八峰町J-VERクレジットを組み合わせ、 塩を消費する家庭から排出されるCO2をオフセットする、というものです。

地場産業の活性化にJ-VERクレジットが役立ち、クレジットの「地産地消」が図られることと、消費者の「直接山には行けないけど、何らかの形で環境に貢献したい」という消費者ニーズに応え得る商品といえます。 町ではこの「白神の塩」だけではなく、さまざまな農産物などの特産品がありますので、今後、そのような特産品との組合せを模索しながら、J-VERクレジットの「地産地消」と、特産品の「地産都消」を進め、 八峰町をPRしていくことができればと考えています。

 

森の再生、都市と山村の交流に向けて

八峰町では、過去に「分収林制度」として、町所有の山林に町民がスギを植林し、将来的にそのスギを生産していくことを目的とした事業を行ってきました。 今、その分収スギ人工林の多くが伐期を迎えています。

契約では、立木販売のための皆伐が終われば、その土地は、再造林の意思がなければ町に返地されることになっています。 町の高齢化が進み、山を持続的に経営できる人材が減少してきている中にあって、皆伐跡地をどう再生してくことができるか、が町の課題になります。

保安林に指定されている山林であれば、保安林制度に基づき、優先的に植栽等の事業を予定しなければなりませんが、他の山林においても放置するわけにはいきませんし、 何らかの形で再生していくことが求められますが、そのためには財源が必要です。

現在は、森林組合と相談しながら国や県の補助事業等を最大限活用して、少ない経費で実施できる植栽を定期的に行っていくことを検討しているところですが、それだけではなく、 町のJ-VERプロジェクトの目的でもある「都市と山村のつながり」に皆伐跡地を活かしたい、と考えています。

昨年、秋田銀行が行っている「あきぎん森づくり活動」を八峰町で受け入れることができました。今後、このような取組みをクレジットの購入企業とともに進めていきたいと考えています。

町では、これまでもグリーンツーリズム(農村体験)やブルーツーリズム(漁業体験)を受け入れる施設整備を行ってきていることや、交流体験型観光の拠点である「白神体験センター」もありますし、 昨年新しく始まった「ジオパーク」(地球活動の遺産を主な見所とする自然の中の公園のこと)もありますので、山林で林業体験をしてもらいながら、 町のいろいろな部分を体験してもらえることができるメリットを、企業訪問等の際にPRしています。

クレジット購入企業に、実際に八峰町に訪れてもらうことによって山村の現状を知ってもらうことが、クレジットを活用した森の再生に向けた第一歩ではないでしょうか。

 

おわりに

白神山地は世界自然遺産であることから、人が基本的に入らない、自然のままにしておくことになっています。 一方で、スギなどの針葉樹の多くは、建材として活用されたりすることを目的として人工的に植栽されたものが多く、その価値を高めていくためには、森林に何らかの形で手をかけていくことが必要です。 それが健全な森林の育成につながり、里に住む私たちは、水資源を含め、その恩恵にあずかって生活しています。

森林から生まれるクレジットはそれを「作る」ことが目的ではなく、クレジットを活用してもらい、プロジェクト事業者が森林にさまざまな形で返していく事業を「創る」ことが大事ではないかと考えています。

企業にクレジットを活用してもらって、初めて、クレジットの効果がそれを作る側、購入する側双方に生み出されるのではないでしょうか。 八峰町では、町有林の間伐から生み出されたクレジットの収益を、そのまま町有林の管理に使うのではなく、町民や森林を活用する企業等に還元できるしくみを優先にしています。

それは、白神山地の保全や地球温暖化防止には息の長い活動が必要であり、町有林の施業だけではなく、町全体で考えていかなければならない課題でもあるからです。 今後もJ-VERプロジェクト活動を通じて、企業や団体などとともに、さまざまな取組みを進めていきます。

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