政治問題に揺れる中国環境ビジネス


まとめると

この記事は日中の貿易の現状に関する記事です。 二国間の政治的緊張が高まる中、ビジネスはどのように展開していくのか?特に車関係の輸出入を例に挙げ、解説しています。

 

筆者:ECOLOGライター(青山 周)
(この記事は弊社発行媒体「日中環境産業 」(2013年11月号)より転載しています。)

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(photo by Jonathan Kos-Read)

はじめに

未だ収まっていない反日感情 9月15日から18日までの間、尖閣列島の国有化に端を発した反日デモが中国各地の都市で吹き荒れた。

9月20日から3日間にわたり、上海の工業博覧中心で開催される予定だった第2回日中グリーンエキスポは中止となり、中国で環境ビジネスを推進しようという企業の失望感が広がった。 その後、9月下旬に予定されていた日中経済協会訪中代表団も延期となり、日中間で制度化された経済交流は現在すべてストップしている。

今の中国は、非常に悪い意味で、日本人が日本人であることを意識しないではいられない場所となったのである。尖閣問題に関する報道は「持続低音」のように連日繰り返し報道され、新聞を見るのもテレビを見るのも嫌になるほどのネガティブ・キャンペーンが続いている。実際に公式の対日世論では「次第に悪化している」という現在進行形の表現が使用されている。

日本から発信された政治のメッセージが中国の国家指導者、共産党・政府、そしてあらゆる中国の大衆に怒りの火をつけ、今も消えていないどころか、盛んに炎をあげている。日本政府の行動は中国共産党と中国政府が長期にわたり封じ込めてきた反日というパンドラの箱を開けてしまったといえる。

 

「政冷経冷」に突入

2005年に半日デモが発生した時は「政冷経熱」、すなわち政治は冷たいが、経済はホットであり、歴史問題という政治問題が経済に与える影響は限定的なものだった。歴史問題は確かに根の深い問題であるが、靖国神社への閣僚の参拝という問題に限定するならば、中国の国民感情を刺激しない答えを見出すこともできた。ところが、今回はデモのさなかの9月17日に中国の複数の専門家が対日経済制裁の議論を一斉に始めるという、これまでにない異例の展開となっている。

かつて、1990年代半ばには核実験を強行した中国に対して日本が政府開発援助の停止といった経済制裁を実施したが、今では立場が逆転し、中国が日本に対して経済制裁を検討する時代になっている。中国の専門家が行っている経済制裁論の特徴は、経済制裁による日本の経済と中国の経済への影響、さらにはそのほかの国々に対する影響などを緻密に研究している点にある。

今年9月に発売された研究書には市場、資本、技術といった分野ごとに中国の産業の対日依存を分析しているが、日中両国の産業の優位性や脆弱性を析出しており、もし中国において日本の産業の依存度を極端に減少させた場合、あるいは逆に日本において中国の産業への依存度をゼロにした場合などの両国経済への影響に関する研究がすでになされていることを意味している。

注意すべき点は日中経済関係の非対称性である。日中経済関係にはさまざまな非対称性があるが、最大の特徴は相手国への投資の量にある。日本企業の対中投資は累計で4万件以上に上り、中国で操業している企業は3万社を超えている。

経済産業省の統計によると、中国における2011年度の日本企業の売上額は38兆円と見込まれている。他方、華為や中興など中国企業も日本に進出しているものの、日本企業の対中投資の量と比べるなら、中国企業の対日投資は微々たる水準にある。 もちろん中国は日本最大の貿易相手国であり、対中輸出額は香港向けを含め16兆円に達する。現地における日本企業の売上と輸出を単純に足し合わせると、50兆円以上の金額となる。言うまでもなく日本のGDP(国内総生産)の1割に相当する額であり、日本政府の掲げる成長戦略に影響を与えることは必至である。

日本企業の2013年9月の自動車の販売台数が前年同期比で半減したと日本のメディアでも報道されたが、中国の新聞に報道された2013年12月の売上額の予想は前年同期比90%の減少と、さらにショッキングな数字が示されている。中国での上位5社(日産、トヨタ、ホンダ、スズキ、マツダ)の販売は2011年に300万台近くに達しており、各社とも将来を見通して増設を行い生産・販売体制を強化していた。

自動車は国内で800万台余りを生産し、半分を輸出、半分を国内販売しているので、中国市場は現時点の販売台数において日本国内の7割に達し、そして近い将来、日本を超える「市場」となることを各社は期待していたところだったことから、日本企業に与えた衝撃の大きさが理解できる。

中国でも乗用車はステータスシンボルとしての「価値」を有している。今回の事件で日本の乗用車に対する需要は激減したが、その影響は新車だけでなく中古車にも波及し、価格が急落している。問題は買い手がいないことである。

日本企業の製品を評価していても、経済的な理由をとってみても誰も手を出したがらない。企業のビジネスだけでなく、市場における消費者の行動においても「日本」はババ抜きのババの状況である。 こうした中、電気製品の量販店もとりあえず、日本製品をセールに出して、在庫を吐き出す戦術に出ている。わが国経済界が政府に対して「相手の立場を尊重しつつ1日も早く交渉すべき」というメッセージを発信したことなどもあり、今月に入り、政治問題由来の「経済戦争」は避けるべきだという冷静な意見も中国で出始めた。

外交上の交渉が行われている限り、中国が制度上の制裁措置を発動する可能性は低いものと思われるが、宣伝部門を活用した対日批判キャンペーンによる実質的な「制裁」は続いており、1日も早い関係の改善が期待される。

中国では11月に党大会、2014年3月には全人代と、重要な政治体制の移行期を迎える。こうした中国の政治の動きと日本の国内政治を睨みながら日中関係改善への模索が続くであろうが、双方の立場にはなお大きな隔たりがあり、日中関係の改善が実現するには相応の時間がかかるものと思われる。

中国の新しい政治体制の中で戦略的新興産業に位置付けられる環境ビジネスにおいてどのような方向性が政策として示されるかが注目される中、日本企業は動きのとれない状況が続く。中国環境ビジネスにとって最大の損失は、もっとも重要な時期において貴重な「時間」が失われることかもしれない。

 

 

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