【インタビュー】中小企業における環境経営と効率化(鈴木敏央ISO事務所代表)


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―企業の環境対応が拓く環境人材活躍の場

企業の環境対応が必然となった時代における中小企業の環境経営の最近の状況と環境人材の育成のあり方、中小企業環境経営のためのさまざまな援助政策における新たな視点、高齢化社会におけるシニア世代の環境スキルアップとその役割などのコンサルタントやISO14001審査員を長年務め、またエコアクション21(EA21)の審査人だけでなく、EA21中央事務局参与なども務められている鈴木敏央ISO事務所代表にお聞きしました。

 

 

中小企業の環境配慮意識変わっていない

鈴木 ISO14001を取得している企業は、ISO14001の要求事項の中で取引先企業へ何か要求事項を伝えることとされています。たとえば「社内規定に基づく環境配慮」要求などです。

化学物質を扱う企業などは、RoHS指令やREACH規制などがありますから、海外に製品を輸出する企業は協力会社にも規制に適合した原材料や部品を納入するよう要請しますが、それを担保するものとして、担当者のガンバリだけでなく、企業全体としてシステムを構築してもらいます。

その運用状況の確認のために第二者監査を行う方法もありますが、ISOやEA21を認証取得することにより外部の目で確認してもらうということです。

 

―さて最近は、中小企業EMS取得の勢いが鈍化しています。大企業の要請で取得しているところは、一渡りしてしまい、次の一手をどうしようかという段階になっているといわれていますがいかがでしょうか。

 

鈴木 そのとおりだと思います。景気はやや持ち直してきているようにも見えますが、中小企業の大部分はその実感はないでしょう。そういった中で、認証取得をする「メリット」や「インセンティブ」があまり見つかりません。

自治体による補助金等制度、金融機関等による関連融資、優良産廃処理業者認定制度、自治体等との入札時で加点等などがありますが、多くの中小事業者が利用できるとはかぎりません。そうなると、自分たちにとってEMSの認証取得が得かどうかはやってみないとわかりません。

審査およびコンサルを通じて、メリットが十分に出せる かどうかです。メリットがないと、「環境に貢献」というだけでは、優先順位が低くなってしまいます。

 

―最近はEA21などのEMSも経営マネジメントを意識して指導するようにしていますから、「EMSを行えば効率がよくなります」という動きが出てきていますがいかがでしょうか?

鈴木 それは最近のトレンドになっていますが、そこで一番大切なのが審査人の力量です。

審査人が審査の場を通じてきちっとマネジメントのポイントを指摘する。「役割、責任および権限」の項で、社長の役割、管理の責任者の役割、部門の長の役割、一般従業員の役割など、「こういうランクの方は、こういう役割責任持っています」「ここはこういう役割です」 「だったらそれに対しての教育をしなければまずいですよ」と部門の長に理解してもらう。

実際、各部門が各部門の目標を達成しなければ、会社全体の目標を達成することはできません。つまり部門の長は環境目標を達成する責任があります。

役割責任権限をきちんと決めて、自分の責任をしっかり自覚することが大切です。そのための教育を行い、目標を達成する。その方向に向かっていただく。そのべースになるのは教育です。

審査人は、審査を通じていろいろ課 題があるところを具体的に指摘し改善してもらう。結果として目標 が達成でき、経費削減につながるということになると思います。

 

 

審査人の力量をめぐって

力量向上の課題

ということはやはり審査人が一番重要なところを担うということになりますね。

 

鈴木 まさにそうなのですが、そこに問題があります。EA21の審査人が万能かというとそうではありません。審査を行う企業に関する実務や法律を網羅的には知らない審査人もいます。

ところがその審査人の力量を引き上げるための効果的なしくみがEA21にはまだできあがっていません。ISOの認証機関は審査員の力量を判断するための手順書を持たなければなりません。その手順にそって認証機関は審査員を教育しています。力量のない審査員は審査に出しません。

一方、EA21の審査人は個人事業主で、どこに所属しているかはっきりしていません。つまり誰が責任を持って教育するか、力量の評価は誰が、いつ、どのようにするのか、そこのところがはっきりしません。

審査人の方はもちろん自分の経験してきた分野はわかっていますが、EA21の審査は幅が広いですから、一つの分野の知識や法律だけでは追いつかない場合が多々あります。その教育システムがEA21は弱く、それが課題だとも思っています。

 

援助は自治体の中にある

―中小企業における環境経営のためのさまざまな援助政策の実際はいかがでしょうか?まだまだ足りないとの意見もありますが、どのようにお考えですか?

鈴木 第4次環境基本計画の中に、「中小企業における環境配慮型経営を推進するため、EA21の普及促進を図る」と出てきますが、予算面は厳しそうです。EA21の普及プログラムとして、自治体イニシアティブ・プログラム、関係企業グリーン化プログラム、大学イニシアティブ・プログラムが用意されていますが、このしくみで十分援助できるかといえば、疑問があります。

一方で、中小企業は、EMSをどのように運用したらよいかというところで悩んでいます。

たとえば、省エネしたくてもそのノウハウは限定的です。確かに当初のケチケチ運動で経費節減はできますが、それがひと渡りした後、本業の中でどう取り組むかで悩んでいます。

私はそういうときは、自治体の相談窓口に行けばよいと考えています。自治体には中小企業のそういうところを担当する部署が必ずあります。そこに行って自分が求めているものを見つけることをお勧めしています。

たとえば、ISO14001の認証取得がブームであった頃のことですが、ある市の中小企業指導センター(現在は組織改革で別組織)ではISOのセミナーを毎年行っていました。

さらに、企業がISOを導入したいといえば、センターに登録しているコンサルタントの中からその業種に向きそうな人を派遣してくれます。費用は1日3万円程度と比較的低廉で紹介してくれますし、その他中小企業のニーズに合わせてコンサルタントを派遣してくれます。そのようなシステムを上手に利用することが大切です。

ただ、中小・零細企業でそういうサービスをうまく利用しているところはあまり多くないような気がします。せっかくのシステム、利用しない手はないと思います。

―役所はそのことを宣伝しないのですか。

鈴木 それなりに案内はしていますが、積極さが足りないように思えます。実は、中小企業への支援が本業の組織でEA21を取ったところがあります。そこはISO14001認証取得や中小企業経営などを支援するのが役割です。

ところが、エコオフィスに関するテーマはあるのですが、支援に関するテーマはEA21の環境目標にはなっていませんでした。審査人の方には、審査では「ここは中小企業を支援する組織なのだから、環境というカテゴリーで支援できるテーマ、たとえばISOの認証取得の支援を年間何件やってみようとか、本業の中で目標にできるものがあります。そういうものを環境目標に入れてください」といっています。

 

シニア世代の活躍の場は

―鈴木先生が常におっしゃっている「本業の中で環境目標を見つけ、実践する」ことへの気づきがまさに大切ですね。これらは、やはり環境についての十分な知識と経験が必要ですね。そういう面からすると、中小企業における環境経営のための人材として経験を十分積んだシニア世代の活用をどのようにお考えですか?

鈴木 今日本では、韓国や中国に製品販売で負けているところが目につきますね。それは日本の企業がシニアやOBを大切にしてこなかったからだと思っています。こういう観点で眺めるなら、今、中小企業は必要な人がいなくて困っています。定年だからといって一律に退職ではなく、力量のある人には残ってもらう。少なくとも次の人材が育つまでは居てもらう。次が育っているのであれば、別の中小企業で活躍できるシステムが必要だと思います。

また、転職できるようにするとか、コンサルタントとして独立することも考えられます。ただ、コンサルタントで難しいのは仕事がどのくらい確保できるかです。

先ほどのある市の例では、専門家を登録しておく制度があります。センターは登録した人の力量をそれなりに評価して、派遣しています。実際、自分には力があると信じていても客観的評価がないと誰も信じてくれません。どうやって評価を得るかが基本です。

 

スキルアップ・キャリアアップは 早くから

―となるとやはりいろいろな資格制度の取得でしょうか。シニア世代が中小企業等で環境経営や環境マネジメント、その他、助言、コンサルタントを行うためにどのようなスキルが必要でしょうか?そして、それを取得するための方法は?

鈴木 定年間際で慌てても間に合いません。遅くても50才前から自分のキャリアアップの計画を立てないと厳しいですね。報酬をもらうということはプロになることです。

マネジメントシステムでの例を申し上げましょう。EA21にしろISOにしろ、マネジメントを実際に経験したことがない人はマネジメントのコンサルはできません。「部下が一人もいない」「排水処理技術は非常に詳しいが他の環境問題はわからない」というような人は難しいでしょう。

力量を上げるには専門分野に関連する国家資格を持つことが早道です。環境分野も幅が広いです。その中で異なる専門の資格を持つ。たとえば公害防止管理者資格、化学物質に関連する資格、たとえば、衛生管理者、エネルギー管理士、廃棄物関連の資格などです。

省エネが求められる昨今、大事だなと思うのがエネルギー・CO2関連分野です。取得が難しいエネルギー管理士をはじめ、温室効果ガス検証関連の資格などです。

これら分野の異なる資格を計画的に取得していくとよいでしょう。資格を持つことは、一定の実力があると客観的に認められます。また資格を取る中で、それにまつわる法律、技術など全般的な専門知識を持てるということです。これが必要です。

一方、環境の分野だけでは「飯が食えない」時代です。環境以外の分野でも審査ができる一定の実力を持つことが必須でしょう。さらにもう一つ大切なものに、ISO1901(1マネジメントシステム監査のための指針)があります。監査員はこういう行動ができる人が望ましいという13項目※があります。

まあこれ全部に当てはまれば会社の中でも管理職、役員になれる人だと思います。全部とはいいませんが、10項目ぐらいは自分で修行して獲得することが求められます。

※ISO19011で示された監査員として 望ましい行動13項目
1,倫理的である2,心が広い3,外交的である4,観察力がある5,知覚が鋭い
6,適応性がある7,粘り強い8,決断力がある9,自立的である
10,不屈の精神を持って行動する11,改善に対して前向きである12,文化に対して敏感である13,協働的である

―これは規格ですか。

鈴木 これはガイドラインですから、要求事項はありません。マネジメントシステムの内部監査用の規格です。参考になることがたくさん書いてあります。

―これからの高齢化社会では、本当に初めに就職したところから次のステップでも報酬を得ながら社会とつながりをしっかり持って生活していく人々が多くなると思います。その中でも環境関連は次のステップとして非常に人気があります。環境に関わってきた人、そうでない人も環境関連の次のステップ、とくにここでは、コンサルタント等を念頭に置いていますが、その方面に行くためにはどのくらいの資格を持っていることが必要でしょうか?

鈴木 私は最低でも環境の3分野でそれぞれいくつかの資格を持っている必要があると思います。そして足りないところは別の専門家の力を借り、コンサルティングを実務的に行える体制をとればよいと思います。

 

企業も審査人も役に立つEMSを第一に

―そうですか。協動の考え方も出てきますね。さて、最後の質問になります。中小企業がより環境に配慮しながら健全に成長し続けるためには、環境マネジメントシステムをどのように利用していけばよいのでしょうか?そして環境人材(企業の中、あるいは外部の人も含めて)は、これからどのようなことに心を砕きながらフォローをして行けばよいのでしょうか?

鈴木 これからは役に立つEMSが必要です。節約運動は、1年目はある程度効果が上がります。しかし、EMSを続けて行くには本業の中で役に立つ目標を作ってPDCAが定着するような助言指導をしなければなりません。

会社全体、部門ごとに、本業としての事業計画や今年度の目標、中・長期計画が必ずあるはずです。以前は、とくに営業関係では「売り上げ目標」といって尻をたたかれ、店長はPlan-Do、Plan-Doばっかりでチェック、アクションがありませんでした。それをちゃんとP-D-C-Aにしていかなければなりません。

もう一つは、確実に経費節減に結びつけることです。そういう環境目標とか計画を立案する。審査人はそういう助言を行う必要があります。その業務のプロセス、使う機器、施設あるいは原材料や排出物など、この業務ならこういうものが出てくるということを知ったうえで、どうすればいいのかを考える。

知識がなければ、「ここをこのように改善したら廃棄物は少なくなります」「ここの工程をこう改善すればエネルギー節約ができます」というようなことは、そのプロセス全体を知らないとい えません。

そういう実務的な知識を持ったうえで、本業の中のテーマ、たとえば先ほどの自治体の例をあげると、「環境分野の支援をしますというテーマがあるのではないですか」といったようなことを助言する。

確実に効果が出るような目標を作るのは、専門家じゃないとできません。私は本来業務の中で役に立つテーマは「業務の効率化を図る」ことだと助言しています。

これは製造部門だろうと、間接部門だろうと共通のテーマです。そして業務の効率化のためには力量の向上が必要です。力量が上がらないと効率化は実現できません。

力量が上がれば仕事の効率化は上がります。仕事は早く終わります。そうすれば余計な電気、空調もいりません。失敗も減ります。これはどの分野にも適用できるEMSです。そういうところに目を向けることが必要です。

 

BCRも役に立つEMSの一つ

鈴木 もう一つまったく別の視点で、EMSは環境リスク、強いてはBCR (事業継続リスク)に関係していると思っています。環境リスクを減らすことを大きな目標にすることです。具体的にいいますと、「法律違反をしない」「事故を起こさない」「緊急事態を起こさない」ということです。

こういう問題を起こすと、信用をなくし、事業ができなくなり、最悪の場合、会社がつぶれてしまうこともあります。経費削減も大切ですが、事故を起こしてマスコミに取り上げられるようなことになるとたいへんなリスクになります。

審査人の立場からいえば、「事故時への対応に抜けがあります」と指摘し、最終的に法律違反あるいは事故にならないようにする。たとえば敷地内のエネルギー貯蔵タンクや薬品タンクなどが敷地境界近くにある場合、給油等の時に配管が外れて石油などが漏れ、敷地外まで流出してしまうことがあります。

そういう状況を見たとき、「ここはまずいですよ。何らかの措置を施して敷地外に漏れないようにしないといけません」という指摘を行い、環境リスクを減らすという重要な役割があります。そういう役に立つEMSをめざし、審査人が助言することが大切です。

おわりに

鈴木 コンサルタントは助言をしても必ずやってもらえるとは限りませんが、審査人は、審査を行う人です。審査人から不適合あるいは改善が必要と指摘されたことについて、相手は対応策を取らなければならないのです。

つまり審査人の立場は非常に強いのです。逆に責任も重いということにもなります。審査人はそういう立場にあるということをもう一度意識していただき、適切な指摘をすることだと思います。

―環境EMSの最近の状況、環境経営をめぐる企業の理解度、またシニアが活躍していくための基本的考え方、さらには、活躍の場の一つであるEMS審査の審査人の役割や責任がよくわかりました。環境で活躍するあるいはこれから取り組んでいこうという方々にとって全体の方向性が見えてきたと思います。ありがとうございました

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