熊本県 小国町における「J-VER森林クレジット取得事業」


 

小国町の概要

熊本県小国町は九州のほぼ中央、世界一のカルデラ火山、阿蘇山の外輪山の裾野に広がり、九州一の河川、筑後川の最上流域に位置します。総面積は137km2で、人口約8,000人(平成25年3月)の町です。

主な産業は、ダイコン・ホウレン草・キュウリやジャージー牛乳を代表的な産物とした農業、小国杉による林業、豊富な温泉を活用した観光業などです。

筆者:ECOLOGライター(穴井徹)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年5月号)」より再編集して掲載しています。)

 

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小国町の森林

標高320~800mの間にスギ・ヒノキの人工林や天然林のクヌギ・ナラ・カシ類が見られ、その森林面積は10,700haと町の面積の約80%を占めています。森林のほとんどが民有林であり、土壌は火山灰土壌で黒色土や褐色土で肥沃な土質です。

年間平均気温は13°C、年間降雨量2,400mm以上と比較的多く、スギの生育にとくに適した気候条件となっています。

 

小国町の林業

小国町の林業の起こりは古く、肥後細川藩の藩令の下に各戸25本のスギ穂の直挿しに由来し、江戸時代中期にまでさかのぼり、九州一円に「小国杉」として名をはせています。その特徴としては、前述しましたが、森林のほとんど(約96%)が民有林であることです。各戸の所有形態としては、所有森林面積が5ha以下の林家が約80%を超えており、小規模の林家が多くなっています。

 

そして一番の特徴が、人工林のほとんどがスギであることや、そのスギの品種が小国地方の気候風土に適した「ヤブクグリ」と「ヤクノシマ」の二品種で統一されていることがあげられます。挿し木で育てた二品種の特徴は、ヤブクグリは成長が早く淡いピンク色で材質に粘りがあり、板材に最適です。ヤクノシマはアヤスギ系に属し、成長は遅いが直材で淡紅色、材質は強度があり、板材はもちろんですが、柱材にも最適です。

 

スギの品種が統一されていたことにより、昭和61年に国立林業試験場(現独立行政法人森林総合研究所)において国内では初めて実大試験を行い「地域材強度」の数値化が実現し、間伐材を利用した、ゆうステーションや小国ドーム 等が代表する大型木造建築群の建設の礎をなしています。

 

また生物多様性の森林の豊かさ、水土保全、CO2の吸収など森林の持つ公益的な機能を維持しつつ、そこで得た林産物を消費者が活用することで、環境に配慮した循環型の地域社会づくりをめざして、平成18年に小国町森林組合が国内の森林組合としては全国で2番目に、SGEC「緑の循環」森林認証を受けました。

 

 

J-VERへの取組み

 

(1)取組み概要

小国町が環境省の制度であるJ-VERへ取り組むきっかけとなったのは、平成21年に小国町も構成員となっているNPO法人「九州森林ネットワーク」(林産地の自治体、森林組合、山を守ろうという林業家、そして水源の森づくりの取組みをすすめる町や団体、木の家づくりを実践する建築家や工務店など、九州各地の山や町からの参加者を募り、ネットワークによって連携し、貴重な地域の森林資源を活かす21世紀のまちづくりと森づくりの実現をめざし設立されたNPO法人)の活動の中でJ-VER制度を知り、山側の構成員 (熊本県小国町・宮崎県諸塚村・大分県(株)トライウッド)で取り組んだのがきっかけでした。

その結果、平成21年12月に九州の自治体としては初となる、森林経営プロジェクト間伐促進型の登録を受けました。

プロジェクトの概要としては、約370haの町有林を対象森林とし5カ年で80haの間伐を行い、その対象行為により増加したCO2の吸収量増加分をクレジット化するものです。

クレジット販売による収益で、これまで実現できなかった低齢級林の搬出間伐を行うことに最大の主眼を置いています。

これまで低齢級林は材価との兼ね合いで採算性に乏しく、できても切捨て間伐が主流になっていましたが、適正な時期に適正な搬出間伐を進めることで、林業の持続可能性を維持、強化していくことと、林地残材の減少と有効利用を目的としています。

またクレジット販売による収益の一部を、直接的に山に還元するだけではなく、持続可能な森林経営をめざし、後継者対策や販売促進活動など、新たな林業振興対策を拡充するほか、カーボン・オフセット制度の普及促進のため、「小国町カーボン・オフセット協議会」を小国町と小国町森林組合で設立し、森林をキーワードとした環境づくりのための財源としても充当しています。

 

(2)クレジット発行までの流れ

平成21年のプロジェクトの登録申請に当たり、まずはプロジェクト申請書およびモニタリングプランを作成し、そしてそのプロジェクトの妥当性を認めていただくことから始まりました。(当町申請時と現行では申請の方法が一部変更されているため参考として)

プロジェクト登録後、間伐が終了した現地でモニタリング調査(面積測量・毎木調査等)を実施します。(本プロジェクトでは、小国町森林組合がモニタリング調査およびモニタリング報告書の作成業務にプロジェクト参加しています。

その後、第三者の検証機関による現地検証を経て吸収量認証、クレジット発行という流れになります。申請までに必要となる経費は、モニタリング調査・検証・クレジット発行費用などです。

 

 

クレジットの流れ

小国町においてクレジットは現在までに約2,000t発行し、当方の口座(口座管理事務局:気候変動対策認証センター)にて保有管理し、クレジットが販売された都度オフセットプロバイダーを介し移転しています。

クレジットの販売状況は、平成22年に自動車メーカーのBMWグループ傘下「ミニクーパ」が発売した、カーボン・オフセット付きオプションカー へのクレジット販売契約成立を皮切りに、神奈川県横浜市を介したサッカーJ2チーム「横浜FC」のゲームに対するオフセット、東京都港区の施設維持のオフセット、熊本県熊本市が主体となって行っている「環境フェアー」や1万人のランナーが参加する「熊本城マラソン」のオフセット等、都市部の自治体との地域間連携によるカーボン・オフセット事業の展開に利用していただいております。

その他、地場企業による環境活動の一環としてのクレジット利用による販売が主な実績です。

また、小国町で開催されている各種イベントを環境に配慮したイベントとするため、クレジットを自己消費しカーボン・オフセットを行っています。これまでの累計で約500tを活用しています。

 

今後の展望

J-VER森林クレジット制度に取り組み、クレジット化し販売していくまでにはモニタリング調査・検証委託・クレジット発行手数料などの経費が発生します。

その後、販売促進のための経費や、町内外の方々に対してJ-VER制度の普及やカーボン・オフセット制度の周知活動等の経費も必要となります。こういった経費をクレジットの販売収益で確保しつつ、前述したとおり、森林整備や新たな林業振興対策に充当していきたいと思っています。

その延長線上の目標として、クレジットを購入していただいた企業や自治体などと単発的なクレジットの売買に終わることなく、継続的に当町のクレジットを活用したカーボン・オフセット活動を行っていただくこと。そして次の段階として、農産物などの特産品の販売や、当町に訪れていただきグリーンツーリズム体験など人的交流も図っていきたいです。

 

その他の環境活動

小国町は天然の恵みである地熱や温泉が豊富にあります。これまでは化石燃料(重油・灯油等)を利用しボイラーにより木材の乾燥を行ってきましたが、近年地球環境に優しい天然資源の地熱を利用して木材乾燥を始めました。

この乾燥方法は、CO2の排出がほとんどありません。また地球に優しいだけでなく、他の木材乾燥方法よりも温度変化などが急激でなく、木への負担も少ないため、木本来の「色」や「艶」を保つことが でき、利用された施主の方々からも高い評価を得ています。

当町においてのカーボン・オフセット事業に取り組んだことによる効果は、クレジットを販売し換価することにより経済的に潤い、森林整備を行うことができたことです。森林を介した環境活動を行うことによる効果は、社会(地域)への貢献と町のイメージアップです。

しかし、これらの効果を持続させるためには、循環型で森林を持続的に管理していくことが必要です。

 

 

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