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2015.12.17

京都市独自の低炭素社会実現に向けた戦略


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京都議定書から地球温暖化対策条例の制定、全部改正

京都市は、1200年を超える悠久の歴史に育まれ、市域の3/4を占める森林をはじめとする山紫水明の美しい自然や落ち着いた都市景観、受け継がれ磨き上げられてきた伝統文化が、今も生き続ける世界でも稀有の歴史都市です。

同時に、人口150万人を擁する現代の大都市であり、年間約5,000万人の観光客が訪れる国際文化観光都市でもあります。

また、伝統を守りつつ常に新しいものに挑戦する進取の精神と創造の力を秘めた 「未来を創るまち」です。

このようなまちの特性を活かし、本市は、1997年12月に開催された「国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」を契機に、自治の伝統に裏打ちされたパートナーシップ精神の下、市民、事業者、行政が一体となって、議定書誕生の地としての誇りと使命感を共有しつつ、先進的な地球温暖化対策を進めてきました。

2004年12月には、さらなる取組みを進めるため、地球温暖化対策に特化した全国初の「京都市地球温暖化対策条例」(以下、条例)を制定し、条文に掲げた「京都市域からの温室効果ガス排出量を、2010年度までに1990年度比で10% 削減」という削減目標の達成に向け、市民・事業者・行政との協働により取組みを推進してきました。

2010年度実績では、1990年度比15.1%の排出削減を実現し、削減目標を達成しました。

そして、2010年10月、温室効果ガス排出量を80%以上削減した低炭素社会の実現をめざすことを新たに決意して条例を全部改正し、「京都市域からの温室効果ガス排出量を、2020年度までに1990年度比で25%削減、2030年度までに40%削減」という高い削減目標を掲げるとともに、具体的な取組みや施策をさらに充実・強化しました。

筆者:ECOLOGライター(京都市環境政策 局地球温暖化対策室担当 藤岡伸亮)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年6月号)」より再編集して掲載しています。)

 

低炭素社会実現に向けた戦略

2010年の条例の改正に当たっては、低炭素社会の実現に向けた中長期的な目標や課題解決に向けた取組みの提案などを行う、事業者、市民、環境保全活動団体および複数の学識経験者などからなる「地球温暖化対策推進委員会」で審議を重ねました。

そして、次のような低炭素社会実現に向けた戦略により条例の改正を行うこととしました。条例の前文では、「持続可能な循環型の社会経済システムへの転換を図ることが不可欠」と謳われています。

条例の改正前までは、市民が地球温暖化問題に気づき、理解し、行動を始めるという、いわば始動期でした。

しかし、条例の改正検討時には、今や、科学的な知見や国際的な共通認識の下、地球温暖化を防止し、低炭素社会を実現するという人類共通の緊急課題を着実に解決するため、「持続可能な社会経済システムへの転換」を進める、まさに充実期が到来していました。

こうした意味から、本市は政策的規制や支援誘導、啓発等の施策を個別に講じるのではなく、国の基本的施策なども含め、あらゆる施策の基軸に「環境」を据え、これらを融合しながら相乗効果を生むような大きな枠組みを構築する必要がありました。

 

これこそが、本市の志向すべき低炭素社会実現に向けた戦略でした。低炭素社会実現に向けた戦略は、

①第一に、大胆な政策的規制や 支援誘導などの施策のパッケー ジにより、大幅なエネルギー効 率改善やエネルギー転換等を進め、温室効果ガスを排出しない 都市構造への転換を図る。

②第二に、削減努力を進めても なお不可避な温室効果ガスの排出については、他の場所におけ る削減活動等に投資する、あるいはその削減量に価格を付けて 購入することで、排出される温 室効果ガスを埋め合わせることが可能である。

削減量という環境価値を経済的に評価すること は、市内各所の削減活動を促すことにつながり、近い将来到来するグリーン経済への移行を先導し、地域経済の活性化に大きく貢献する。

③第三に、「DO YOU KYOTO?(環境にいいことしていますか)」を合言葉に、市民一人ひとりが地球温暖化という問題に真摯に向き合い、ライフスタイルの見直しなどに自ら考えて取り組むことを促す。

④こうした取組みを重層的に進 めるとともに、取組みの結果を評価し、継続的な改善を図ることにより、日々の暮らしや都市活動から発生する温室効果ガスの最小化と、環境と経済が融合 する好循環の社会経済システムの構築をめざす。

このような戦略を志向し、条例改正に臨んだのです。

 

DO YOU KYOTO?クレジット制度の戦略的意義

DO YOU KYOTO?クレジット制度は、中小事業者や市民が削減したCO2の削減量をクレジットとして市が認定し、地域のイベント実施者や大規模事業者が、これをカーボン・オフセットに活用する制度で、条例改正時に志向した戦略の実現をめざす取組みの一つとして構築されました。

その戦略的意義は、市民や中小事業者の取組みの成果であるCO2排出削減量に価格をつけ、売却益をインセンティブとして市内各所の削減活動を促すとともに、削減努力を進めてもなお不可避な温室効果ガスの排出をクレジットの購入により埋め合わせることで、グ リーン経済への移行を先導し、地域経済の活性化を実現するところにあります。

また、条例に基づく特定事業者向けの「事業者排出量削減計画書制度」(特定事業者に対して温室効果ガス排出量の削減措置や削減目標等を記載した排出量削減計画書および削減実績をまとめた排出量削減報告書の提出を条例で義務付け、本市が設定した削減基準等に照らして総合評価して、評価結果を報告書と併せて公表する制度)において、本市が設定した削減基準に削減実績が及ばない場合の追加削減対策として、削減クレジットの購入によるカーボン・オフセットを手法として盛り込み、特定事業者の購入を促しています。

このように、政策的規制とのパッケージにより、大幅なエネルギー効率改善やエネルギー転換等を進めるという点でも戦略的意義を有します。

 

中小企業や家庭のCO2削減を後押し

削減の対象は、特定事業者を除く中小規模の事業者と家庭(個別世帯ではなく市民グループや商店街などのコミュニティ)です。

これは、本市の地球温暖化対策の大枠として、特定事業者に対しては前項で紹介した「事業者排出量削減計画書制度」による政策的規制による対策、中小規模の事業者と家庭に対しては支援誘導による対策を採るという考え方があるためです。

また、市域からの総排出量が661万tと基準年度(1990年度)より119万t減少した2010年度も、業務部門と家庭部門からの排出量がそれぞれ17.6%、11.6%と増加しており、早急な対策が求められているためでもあります。

中小事業者や家庭などで、設備の省エネ化や運用改善などに取り組み、取組みの1年前と比較して取組み実施後のエネルギー使用量が削減できたことを証明すると市がクレジットとして認証します。

削減実施者は、認証されたクレジット量1t当たり1万円の奨励金を市から受け取ることができます。反対に、本市はクレジットを引き受けます。

認証期間は最大2年間です。

なお、DOYOUKYOTO?クレジットの価格は、削減実施者に対 する省エネのインセンティブ効果をしっかり発揮するよう留意して設定しました。

 

簡易でわかりやすく、かつ信頼性の高いしくみ

クレジット制度といえば、「国内クレジット制度」や「オフセット・クレジット(J-VER)制度」が一般的です。

大企業などによる技術・資金の提供を通じ、中小企業が行った温室効果ガス排出削減量を第三者機関が認証し、低炭素社会実行計画の目標達成やカーボン・オフセットに活用できる制度です。

しかし、これら国制度の活用は、定められた削減方法での実施や削減量の算定、認証コストなどの点から中小規模のプロジェクトでは取り組みにくい側面がありま す。

一方、DO YOU KYOTO?クレジット制度は、基礎自治体が実施する地域クレジット制度として、中小事業者や市民が実施する取組みは小規模でも貴重であると捉え、CO2削減規模は0.1t-CO2から受け付け、認証コストもゼロ、削減量の算定も検針票(エネルギー使用量と、その前年同月実績が記載されている)などを活用した簡易でわかりやすく、かつ信頼性の高い認証方法を採用しています。

こうした工夫により、取組みの裾野を広げるのがねらいです。

2011年8月に制度運用を開始して以来、2013年3月で、中小事業者プロジェクト22件、コミュニティプロジェクト12件が実施され、それぞれ約430t-CO2、約145t-CO2のDO YOU KYOTO?クレジットが創出されています。

 

環境価値の見える化

中小事業者や家庭などで創出されたクレジットは、いったん本市に蓄積されますが、次にイベント実施者や大規模事業者などに、クレジット量1t当たり1万円で売却します。2013年3月末時点で10件、約60t-CO2のカーボン・オフセットが実現しています。

ここでは、その主なものとして京都のJリーグチームである京都サンガF.C.による取組みを紹介します。京都サンガF.C.は、2012シーズンに5月26日をはじめとして、全8試合のホームゲームで、試合の開催時に使用する電気や、チーム・観客の移動、ごみの処理に伴う31.1t-CO2をDOYOUKYOTO?クレジットによりカーボン・オフセットしました。

カーボン・オフセットを通じた環境配慮活動を社会的注目度の高いJリーグクラブが率先実行することは、カーボン・オフセット等に関する市民や事業者の認知や理解を高め、市内各所の削減活動を促す効果が非常に大きいと考えられます。

また、京都をホームタウンとする京都サンガF.C.が、DO YOU KYOTO?クレジットを活用してカーボン・オフセットを行ったことは、環境面だけでなく、地域コミュニティや商店街の活性化、中小企業振興、さらにはスポーツ振興など多方面の政策効果を生み出す、他のモデルとなるユニークな取組みです。

 

具体的には、
①町内会や商店街等のコミュニティや中小企業など、クレジット創出者のオフセットマッチに対するオーナーシップとクラブ へのサポーターシップの醸成

②クレジット売却収入(創出奨励金)の他の活動費用への充当

③クラブの環境配慮活動を知ることによる観客・サポーターのクラブに対するサポート力強化、

などそれぞれの関係主体について、多くの副次的効果を生み出しています。

なお、京都サンガF.C.によるカーボン・オフセットマッチは全ホームゲームで実施する予定です。

その他、地球にやさしい京都観光を実践するため、『オフセット付き観光アプリ「京都まちあるき観光Navi」』ダウンロード者や京都ツアー購入者の生活に伴うCO2のカーボン・オフセットにも活用されました。

また、楽しく遊びながら環境を学ぶことができるボードゲーム「環境オフセットゲーム」の製造に伴うCO2のカーボン・オフセットにも活用されています。

 

環境価値の循環を実現する地産地消のCO2クレジット

こうしたカーボン・オフセット事例の増加により、自らが創出したDO YOU KYOTO?クレジットが社会的価値のある行動に活用される様子が、市内各地で見られるようになっています。

つまり、中小事業者や市民が、イベント実施者や大規模事業者などのどうしても減らすことのできないCO2を代わりに削減し、イベント実施者や大規模事業者などのDO YOU KYOTO?クレジット購入資金が、中小事業者や市民の次の省エネを奨励するための資金として活用され、地産地消で支え合う環境価値の循環の姿が実現しているのです。

 

今後の展望

DO YOU KYOTO?クレジットの創出については、ICTを活用することにより、さらに参加しやすい環境の整備を行いたいと考えています。

また、DO YOU KYOTO?クレジット活用については、高付加価値の環境価値を形成するため、京都の最大の魅力である伝統文化と観光、環境とのさらなる融合を検討したいと考えています。

こうした工夫を通じて、市内はもとより、環境先進都市、歴史都市、文化都市である京都に魅力を感じる市外の方のDO YOU KYOTO?クレジット活用も促し、環境価値循環の輪を広げていきます。

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