中国における省エネ・スマートエネルギーの現状 1/3


―エネルギー価格上昇と進む電源多様化が追い風に―

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はじめに

中国は2010年に2005年比で2020年のCO2排出量を40~45%削減するという中期目標を2010年に国際公約として掲げている。この目標の実現に向けて、エネルギー消費量原単位の改善や非化石エネルギーの導入拡大を具体的に短期的な数値目標として掲げ、一歩一歩達成を積み重ねてきている。本稿は、中国の今後の省エネルギーへの取組みの進展のカギを握る要因として、エネルギー価格動向とその背景にある制度改革について検討する。

また非化石エネルギーとして風力、原子力、そして太陽光が今後電源構成に占める比率を高めることが見込まれる中、電力系統を安定的に運用するための取組みが今後大きく進むと考えられる。そうした文脈でスマートグリッド構築に向けた取組みについても概観する。

最後にまとめに変えて、日本企業のビジネスチャンスと取り組むべき課題についての考えを述べる。

 

筆者:ECOLOGライター(堀井 伸浩)
(この記事は弊社発行媒体「日中環境産業 (2013年11月号)」より再編集して掲載しています。)

 

 

1.省エネルギーを促すドライバー=エネルギー価格上昇は定着へ

 

1.1石炭価格の上昇をもたらした制度改革
第11次5カ年計画(2006~2010年、以下11・5計画)において、中国は単位GDP当たりのエネルギー消費量原単位を20%改善するという目標を掲げ、わずかながら届かなかったものの、19.1%もの大幅なエネルギー効率の改善を達成することに成功した。

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続く第12次5カ年計画(2011~2015年、以下12・5計画)においても、若干水準は下がるものの、エネルギー消費原単位の改善目標として16%という目標値が明示している。いずれも「拘束力のある」目標として位置付けられ、達成に向けて各省、各産業別に個別の目標が設定され、責任の所在を明確化したうえで取組みを進めるという点が奏功したものと評価できる。

 

とはいえ、11・5計画の後半、とくに2009年と2010年は目標達成のために相当強引な手段が取られたようだ。地方によっては、目標達成のために中小工場の閉鎖を迫ったり、真偽のほどは不明であるが、電力供給を停止するように圧力をかけたりした事例が報道されたりしている。

 

11・5計画で高い省エネルギー目標が達成されたのは、行政的手法によるところが大きいという点が指摘できよう。そうした行政的手法による強権的なやり方は、エネルギー浪費の著しい企業を数多く存在する状況下では一時的に大きな成果を上げることが可能であるが、そうした企業の強制閉鎖が一巡した後はさらなる改善を生み出す効果は大きく減少する。

 

持続的な省エネルギーの進展には技術導入や生産管理といった企業の地道な取組みを促す必要がある。11・5計画と比べて12・5計画のエネルギー消費原単位目標が低く設定されることとなっているのは、こうした面で前回とは異なるアプローチで臨まなければならないという新たな課題に直面していることが一因であろう。

 

12・5計画における省エネルギー促進の手法も引き続き、行政的手法に力点を置いたものになりそうではあるが、見過ごすべきでないのは省エネルギー促進の最大のドライバー、エネルギー価格の上昇が定着する方向へと制度改革が進められている点である。

主要エネルギーとして一次エネルギー消費の68%を占める石炭は価格は2000年代半ばより急激に上昇を続けてきた。この価格上昇の背景には、中国の石炭産業において行われてきた制度改革がある。もっとも画期的な変化は2006年に起こった煤炭訂貨会の撤廃であった。従来、中国では石炭取引の多くが煤炭訂貨会という国家計画委員会(現在の国家発展改革委員会)が主宰し、炭鉱と石炭ユーザー、さらに鉄道など輸送部門が一堂に会する会議を経て決定されてきた。

 

この会議では国家計画委員会が指導性価格という形で目安となる水準を提示し、それに基づいて一定の幅でそれぞれの取引における価格が決定されるという方式となっていた。ところが2003年以降の過熱経済の下、石炭需要が急増する中、ほぼ自由化された非電力向けの一般炭の価格は大幅に切り上がったのに対し、電力向けの価格は指導性価格によって低く抑えられたことで、同じ品質の石炭であっても非電力向けと電力向けとの間で2割~3割もの価格差が発生することとなった。

 

当然炭鉱は指導性価格の適用に反発し、それが2006年の煤炭訂貨会で頂点に達する。炭鉱と石炭ユーザーの間で折り合いがつかず、取引成約率は2割以下にまで落ち込む結果となった。翌年からは煤炭訂貨会は業界団体主催の会議へと改組され、指導性価格は廃止、石炭価格は市場実勢を踏まえた水準で設定されることに変わり、石炭価格は2000年代後半には急上昇を続けることとなったのであった。

 

そもそも指導性価格が電力向け石炭に対して引き続き適用された理由は、電力価格の上昇がインフレへとつながることを恐れる政府の思惑は求められる。そのためその後も、石炭価格が高騰する状況の下、国家発展改革委員会は石炭価格の上昇幅に上限を課そうと何度も試みたりもしたが、その都度、売り惜しみや販売する石炭の品質悪化という炭鉱の対応策に阻まれ、断念することが繰り返された。

 

石炭価格はこうした経緯を経て、現在ではほぼ市況を踏まえた価格形成が行われており、また資源や環境、保安などの外部コストを炭鉱で賦課金として徴収する制度の導入などもあり注1)、かつての人為的に低位誘導されていた水準と比べると大きく切り上がることとなっている。

 

重要なことは制度改革による構造自体に生じた変化であるため、再びかつての安価な水準に石炭価格が下落する可能性は低いということである注2)。日本の経験を持ち出すまでもなく、省エネルギーの進展にはエネルギー価格の上昇が強い影響を及ぼすため、主要エネルギーである石炭価格の上昇を導く方向への価格形成プロセスの変化は、12・5計画において省エネルギーを進める追い風となろう。

 

→次ページ「中国における省エネ・スマートエネルギーの現状2/3」

 

注1)この点について詳しくは、堀井伸浩編『中国の持続可能な成長-資源・環境制約の克服は可能か?』日本貿易振興機構アジア経済研究所、2010年3月の第1章の拙論文を参照。

注2)中国経済の減速が進む中、2012年は石炭の最大の需要部門である電力、次に消費量の大きい鉄鋼の産出量が横ばいないし減少していることより、石炭需要が軟調となり、価格が大幅に切り下がっている。しかし本稿で主張しようとしているのは「供給面」で石炭価格の上昇へとつながる制度変化が進められてきたという点であり「、需要面」でブレーキがかかった場合は当然価格が下落圧力を受けることを否定するものではない。中国経済が今後も成長を続けるとすれば(、省エネや脱石炭化がある程度は進むとしても)需要は回復し、いずれ石炭価格は再び上昇軌道に戻ると考えている。

 

 

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