1.2電力価格、ガス価格の矛盾も拡大
石炭価格の上昇は他のエネルギーにも波及効果をもたらす。もっとも影響が大きいのは石炭を主要燃料とする電力である。従来の制度では電力向けの石炭価格が安価な水準に抑えられていたわけであるが、石炭価格が高騰した結果、発電所の送電網への卸売価格は当然上昇圧力を受ける。
ところが2000年代後半には、インフレ抑制の観点から電力の小売価格の引き上げ幅が引き続き制限されていたことで、結局卸売価格の引き上げも進まず、発電所の採算性が次第に悪化するようになった。
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筆者:ECOLOGライター(堀井 伸浩)
(この記事は弊社発行媒体「日中環境産業 (2013年11月号)」より再編集して掲載しています。)
2010年には43%の発電所が赤字に陥ったとされる。かつては電力小売価格を低く抑えるためのコストを炭鉱に赤字を押し付けていた構造であったが、煤炭訂貨会の撤廃によってツケを引き受ける先が発電所に代わったということになる。
しかし当然こうした矛盾を抱えた構造は長続きするものではない。赤字を抱える発電所は発電量を抑制する行動に走り、電力不足を深刻化させることとなっている。価格に上限規制をかければ過少供給を引き起こすのは理の当然である。
そこで2012年、2011年には石炭火力の卸売価格を大幅に引き上げざるを得なくなったようである。石炭火力の卸売価格は平均で0.46元/kWhとなり、これは2010年と比較すると26.8%もの大幅な引き上げである。
ただし、小売価格も引き上げられたものの、その引き上げ幅は卸売価格の上昇には及ばなかったとされる。すなわち次にツケを回されたのは送配電企業ということになる。
国家電網公司は発電企業よりも国家の介入と補助金を入れやすいとはいえるが、当然持続可能ではない。いずれは小売価格の引き上げで逆ザヤを解消するべく、卸売、小売全体の電力価格形成の市場化を進めざるを得ないと考えられる。問題は、昨年まではインフレ懸念が根強く、今年になってからは景気停滞の長期化が懸念される状況があり、社会へのインパクトの大きな改革に踏み切る環境が整わない点である。
しかしいずれ電力価格も引き上げに進まざるを得ないだろう。同様に価格形成への政策介入があり、矛盾を抱えているのは天然ガスである。天然ガスは2010年5月末時点で、同一熱量ベースで石炭より61%割安となっていた。その後、価格引き上げが進められたものの、依然3割程度石炭に比して割安となっており、輸入ガス価格と比較すると半値程度の水準に留まっているとされる。
天然ガスの価格抑制の背景にも、消費の34%を占める民生用都市ガス価格を抑制しようという社会的配慮がある。一般庶民の炊事、入浴に用いられる都市ガスは人々の身近なエ ネルギーであるがゆえに値上げに対する反発を気にしているのだと考えられる。しかし価格を抑えれば過剰消費が通常生じる。そのため、天然ガスの使用に当たっては許認可を得なければならない制度となっている。
その結果、とくに産業向けで本当に必要なユーザーが利用できず、他方で利用可能なユーザーは浪費をするという問題を抱えている可能性が高い。12・5計画においては、石炭の一次エネルギー消費に占める比率が68%から63%にまで低下する見通しとなっており、多くが天然ガスによって代替されると想定されている。天然ガスの比率は4%から8%に上昇する見通しとなっており、国内生産分だけでは足りず、大幅に輸入が増えることが見込まれている。輸入依存度が高まっていかざるを得ず、それにもかかわらず国内で天然ガス価格を低く抑えようとすると逆ザヤが拡大し、ガスの卸売を担うCNPCやSinopecといった石油企業の赤字が累積していく構造となっているといえる。現状では政府から補助金を投入することで対処しているが、今後着実かつ大幅にガス輸入量が増えていくことが確実視されるだけに、早晩このガス価格形成についても制度改革に迫られることになるだろう。ガス価格が上昇し、代わりに許認可制が廃止され、利用が拡大した際には、より効率的なガス利用技術の需要が増えることが想定される。
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