6回目の東アジア環境市民会議


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−6回目の東アジア環境市民会議−

国とセクターの境界を越えて
2013年2月27日、北京にて「第6回東アジア環境市民会議/グリーン・サプライチェーン円卓会議」が「グリーン・サプライチェーン構築のためのNGOと企業の役割」をテーマとして開かれました。

この会議は日中韓のNGOと企業の関係者が、国とセクターの境界を越えて一堂に会し、工業製品を生産する際、その材料や部品の調達過程から環境汚染を発生させないため、各々の立場でできることを確認しあおうとするものでした。

筆者:ECOLOGライター(鳥取環境大学経営学 部准教授 相川   泰)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年4月号)」より再編集して掲載しています。)

 

 

キヤノンへの中国NGO評価好転

この会議で、中国側の実質的な中心だったのは「緑色選択連盟(グリーン・チョイス・アライアンス、GCA)」でした。GCAは46の環境NGOが加盟するネットワークです。1月29日にGCAが開いた記者会見でサプライチェーン管理に消極的な企業としてキヤノンの名前をあげたことを前回で紹介しました。

同社はこれを深刻に受け止め、直後からGCAの中心的な団体の一つである公衆環境研究センターと連絡をとり、改善対応について相談しました。さらに、会議の日本側の主催団体である東アジア環境情報発伝所を通して、この会議へも参加表明しました。

この知らせを受けた多くのGCA関係者は半信半疑でしたが、当日は予告どおり出席があり、午後には同社がサプライチェーンに対して実施している環境面での管理について説明するとともに、日中両国からの参加者による質問にも答えました。

実は、質疑応答では「担当ではないから」と言葉を濁す場面がありました。この点に対しては、閉会後、GCAの中心メンバーから本気度を疑う厳しい意見も聞かれました。

しかし、記者会見以前に比べれば、こうした場に参加し、質疑応答までしたことで、改善していこうとする姿勢の変化は、そのメンバーも含めてGCAにも認められ、前号で紹介した厳しい評価はひとまず好転しました。

もっとも、GCAは姿勢の改善を認めているだけで、結果を伴う行動については今後を注視するとしています。今回はいわば最初の一歩で、信頼関係の構築にはまだ長い歩みが必要なのでしょう。

 

企業内のカベの存在

相互の信頼関係でははるかに先行していながら、主役の座をキヤノンに譲った形になったのが、パナソニックでした。もっとも、奇しくも両社の発言で浮かび上がったのが、各社内のセクショナリズムの存在でした。前記したキヤノンの「担当ではないから」発言もそうですが、パナソニックの説明では環境部門と調達部門の協働の必要性についての言及がありました。

これは、日中問わず社外の立場からすれば、社内の事情に過ぎませんから、それは各社内で解決してくれ、と言うだけで済む話かも知れません。

ただ、グリーン・サプライチェーンという比較的新しい考え方を企業に広めていくうえで、複数の異なるセクションに関わる問題だから取り組みが難しい、ということが、多くの(日本)企業に共通してネックになっているという事情が仮にあるなら、それを広める運動をするNGOの側もそうした事情とともに、各社の試行錯誤についても理解しておくことが有用な場合もあるのでしょう。

 

韓国の変則的参加

東アジア環境市民会議は過去5回、日中韓の環境NGOが隔年で、日本・韓国・中国の順に輪番で開催してきました。

テーマは、相互の環境問題を総論的に紹介しあい、学びあうところから、エコ・コミュニティ、水と健康(水汚染)、気候変動と変化してきました。

テーマが多様で、その分野で専門的に活動している人の参加を重視したせいか、毎回50~100人の参加者を集め、まだ6回目なのに、すべてに参加したのは恐らく中国側の2人と日本側の3人(ただし1人は中国人)に留まります。

本来、企業も交えた今回の会議の一番理想的な開き方は、日中韓それぞれからNGOと企業の代表者が参加することだったでしょう。

しかし、実際には韓国から企業の参加はなく、NGOからも1人の参加に留まりました。この大きな原因として、東アジア環境市民会議の開催のもとになった日中韓環境情報共有事業の韓国側の窓口団体、韓国環境運動連合(KFEM)が2008年の李明博政権成立後、迫害を受け苦境に立たされてきたことがあげられます。

それでも、2010年には光州で気候変動をテーマにした第5回の市民会議を開いてもらうことはでき、今回、参加したのもその責任者でした。

ですが、ソウルの本部はその後も弱体化し、事業の担当組織まで閉鎖してしまいました。本部本体が拒否したのをはじめ、事業の担当を代わる団体が今のところ見つかっていないため、事業は一時休止になっています。

東アジア環境情報発伝所と、中国側の窓口団体である環友科学技術研究センターは情報共有事業については一時休止も仕方がないとしつつ、グリーン・サプライチェーンに向けた事業での協力をKFEMに求めました。

しかし、これも拒否する回答があり、会議開催までに他の協力団体も見つからなかった結果として、韓国からはNGOからの参加者すら1人のみ、企業には参加を呼びかけられず、参加を得られませんでした。

 

砂塵舞う天津で聞いた話

それでも韓国から参加者があったことは有意義でした。最後のコメントで、韓国のサムスンなどの有名企業が東南アジアで行った鉱山開発の汚染問題に対して責任をとろうとしないことが問題になっていることが紹介されたうえ、グリーン・サプライチェーンの考え方は企業活動をグローバル化させている韓国でも重要で、帰国後、KFEM本部をはじめとするNGOに働きかけたい、との決意が語られました。

そして、早くも3月上旬には新たな協力団体を紹介する連絡がありました。

ところで、会議前日の2月26日に北京入りした際、夜でも大気汚染で遠くが白く霞み、それでもましとのことでした。翌日の会議をはさんで28日には空が褐色がかった灰色になって、「砂塵暴(砂嵐)だ」という人もいました。

その砂塵が舞う中、天津の開発区で環境保護活動を進める政府系NGOを訪ねたところ、環境情報公開に熱心な企業の表彰活動をやっているとのこと。もう数年やっていて、表彰される企業も年々増えているということでしたが、そこで多数表彰されていたのがサムスンのグループ企業、同行した韓国NGO代表が苦笑していました。

 

 

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