大企業、中小企業、制度運営者向け温室効果ガス削減支援施策
目次
はじめに
環境省では地球温暖化対策推進の一環としてCO2削減ポテンシャル診断支援事業等の補助事業や、温室効果ガス排出量算定・報告等に関する調査事業を通じて取りまとめた各種ガイドラインの公開など、大企業中小企業制度運営者それぞれの事業者向けにいくつかの温室効果ガス・CO2削減支援施策を実施しています。
このような支援施策への取組みは、日本における地球温暖化対策を推進していくためのものとして進められてきましたが、とくに東日本大震災以降電力需給ひっ迫による節電ニーズへの対応も重要視されています。
また企業にとっては、省エネ法 (エネルギーの使用の合理化に関する法律)への対応、エネルギーコストの削減による経営効率化、CSRなどの観点においてCO2削減・節電への取組みは重要であるといえます。
こうした背景を踏まえつつ、たとえば大企業については省エネ法への対応等のため事業者自身でさまざまなCO2削減・節電対策を実施しているものの、費用対効果が高いにもかかわらず未実施の対策も数多く存在します。
このため、環境省では第三者機関による診断により事業者自身では気づきにくいCO2削減・節電対策の提案および、対策実施の阻害要因の分析を目的としたCO2削減ポテンシャル診断を実施しています。
また、中小企業や制度運営者においては、人手や資金・技術・情報不足等がCO2削減・節電対策実施の阻害要因と考えられるため、人材育成・技術や補助金に関する情報提供等の支援が必要な状況です。
このため環境省では、温室効果ガス排出量算定・報告等に関する調査事業を実施し、中小企業や運営者におけるCO2削減対策・節電対策を推進していただくためのガイドライン等を取りまとめ公開しています。
今回は、これらの事業について簡単にご紹介させていただきますが、その他の施策に関する情報についても環境省のホームページ等において随時最新情報を公開していますので、併せてご活用いただければ幸いです。
筆者:ECOLOGライター(環境省地球環境局地球温暖化対策課市場メカニズム室)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年4月号)」より再編集して掲載しています。)
CO2削減ポテンシャル診断事業
1概要
平成22年度より実施している本事業は、工場やビル等の事業所における効果の高いCO2削減・節電対策の調査・特定を目的とした診断事業で、診断を希望する事業所に環境省が診断機関を派遣し、受診事業所における設備の導入・運用状況等を無料で計測・診断し、有効と考えられる対策技術情報を 「診断報告書」として取りまとめ受診事業所に提供するものです。
診断は事業所の既存資料(エネルギー使用状況、保有設備に関する資料、過去の診断結果等)の分析、現場ヒアリング・現場確認等により行う「診断なし」のコースと、事業所においてエネルギー計測(数日~2週間程度)を行い、計測結果と既存資料の分析等診断する「診断あり」のコース2つを設けています。
費用・効果等に関する情報も含め、設備導入または運用改善によるさまざまなCO2削減・節電対策メニューを提案しています。
これらの診断結果は診断を受診した事業所におけるCO2削減・節電対策の取組みにおいて役立てられておりますが、診断により得られた知見を受診事業所に限らず、より多くの皆さまにご活用いただけるようセミナーやウェブサイト等を通じ広く情報を公開しています。
2本事業実施の経緯
CO2削減ポテンシャル診断支援事業は、産業部門、業務部門におけるCO2削減ポテンシャルを分析することにより、今後の温暖化対策の優先順位付けやこれを推進するための施策検討の基礎データとすることを目的に実施されました。
具体的にはまず
a)文献調査・ヒアリング調査に基づき、設備導入または運用改善に関わる温暖化対 策メニューのリストアップを行い ました。
次にb)事業所に対するCO2削減ポテンシャル診断を実施、事業所のエネルギーデータの分析やエネ ルギー使用状況を計測し(計測あ り/なし2パターンの診断コースを設けています)、それぞれの受 診事業所における効果の高い対策の特定と、実施した場合の費用対 効果を推計しました。診断結果に ついては「診断報告書」として取りまとめ、受診事業所へ提供してい ます。
平成22年度ならびに23年度事業 においてはc)全国の事業所に対し アンケートを実施、a)でリスト アップした対策メニューの実施状況を把握するための調査を行いま した。
また、平成23年度第3次補正予算事業では「緊急CO2削減・節電 ポテンシャル診断・対策提案事業」を実施しました。
本事業は平成23 年3月11日に起きた東日本大震災を受け、とくに節電等に係る診断 ニーズが高いと考えられる被災地を対象に行った事業で、診断結果に基づき、費用対効果の高いCO2 削減・節電対策情報を受診事業所に提案いたしました。
CO2削減ポテンシャル診断支援事業ではこのようなCO2削減・節電対策の実施状況や経済性の把握・分析、希望する事業所に対し てCO2削減ポテンシャル診断を実施することで、設備補助を要さず、 事業所におけるCO2削減・節電対策の実施を支援しています。
平成22年度「温室効果ガス削減ポテンシャル分析事業」
予算:2.5億円
(1)大規模事業者における主要対策の実施状況把握
算定・報告・公表制度の対象事業所(温室効果ガス排出量が概ね3.000t-CO2/年以上の事業所)に対して アンケート調査を行い、主要対策メニューの実施状況、今後実施される可能性を把握し、削減ポテンシャルの大きい 主要対策メニューを抽出しました。
(2)温室効果ガス削減ポテンシャル診断の実施
大規模事業者100事業所(産業部門:77、業務部門:23)に対し温暖化対策診断を実施しました。
平成23年度「温室効果ガス削減ポテンシャル分析事業」
予算:3.6億円
(1)主要対策の実施状況把握
平成23年度は算定・報告・公表制度の対象事業所以外の中小規模事業所以外にもアンケート調査を行いました。これらの調査結果を元に業種別・主要対策別の 実施率をデータとして取りまとめました。
(2)温室効果ガス削減ポテンシャル診断の実施
大規模事業者に限らず中小規模事業所まで範囲を広げ、126事業所(産業部門:47、業務部門:79)に対し、 温暖化対策診断を実施しました。
平成23年度(第3次補正予算)
「緊急CO2削減・節電ポテンシャル診断・対策提案事業」
予算:4億円
(1)ヒアリング調査の実施
本事業の運営方法や診断に関するニーズ把握のため、被災地に立地する企業や地方自治体、被災において診断経験がある診断機関へヒアリング調査を実施し、その結果をもとに対策メニューや優先順位の検討を行いました。
また、とくに重要度が高いと考えられる対策メニューとして蓄電池やガス空調など、節電または電力供給源確保に資する対策を新たな対策メニューとして加えました。
(2)CO2削減・節電ポテンシャル診断の実施
被災地に立地する事業所への本事業の周知や募集活動を通じ170事業所(産業部門:86、業務部門:84)に対しCO2削減・節電ポテンシャル診断を実施しました。
(1)自治体CO2削減ポテンシャル診断支援事業(中小事業者支援事業)
全国の中核市以上の自治体を対象に公募により選定した5自治体において診断事業を実施しました。
具体的には節電・省エネ対策の進め方等を解説した全体研修を実施し、研修後に個別相談会を行いました。
また、それぞれの自治体内にて中小規模事業者を対象 に5自治体合計で61事業所に対しCO2削減ポテンシャル診断を実施しました。
(2)CO2削減・節電ポテンシャル診断事業(大中規模事業者支援事業)
年間の温室効果ガス排出量が概ね3,000t-CO2/年以上の事業所を対象に公募により受診事業所を選定しました。
業種、排出規模、地域等の特性を考慮し62事業所(産業部門:42、業務部門:20)に対しCO2削減ポテンシャル診断を実施しました。
(3)自己診断ガイドラインの作成
平成22年度から実施しているCO2削減ポテンシャル診断事業により得られた知見を取りまとめ、事業者自身による自己診断のためのツールとして「事業者向けCO2削減のためのガイドライン」を作成しました。
事業所におけるエネルギー消費状況の実態把握の方法を中心に解説している他、インターネットを活用した具体的な対策技術の抽出方法についても紹介しています。
3ウェブサイトについて
CO2削減ポテンシャル診断の結果を踏まえ、業種や事業所規模ごとに標準的な初期投資額やランニング費用の削減額等に関するデータや診断事例集を取りまとめ、ウェブサイト「事業者のためのCO2削減対策Navi」にて情報を公開しています。
個別対策メニューの他、過去の受診事業所の事例をもとにCO2ポテンシャル診断の流れについて紹介しています。(事業者のためのCO2削減対策Navihttp://co2-portal.env.go.jp/info 1.4)
4事業実施の成果と今後の課題について
本事業では平成22~24年度の延べ数で458事業所(平成24年度自治体CO2削減ポテンシャル診支援事業61件を除く)にCO2削減ポテンシャル診断を受診いただき、1事業所当たり平均10.2個の対策メニューを提案しています。
具体的には、産業部門においては食料品製造業(14.9%)の他、化学工業(12.3%)、電子部品・デバイス・電子回路製造業 (11.3%)、輸送用機械器具製造業(6.7%)等、業務部門においては宿泊施設(14%)、学校(13%)、医 療機関(10%)、公共施設(6%)等、多岐に渡る業種の事業所にCO2削減ポテンシャル診断を受診いただきました。
平成24年度事業の診断終了後に実施したアンケート結果〔大中規模事業所(62事業所)を対象に実施〕によると59%の受診事業所が診断結果について「満足」または 「やや満足」をいただき、79%の受診事業所において診断機関が提案した対策メニューのうち1つ以上を実施または実施を予定しているとの回答をいただいています。
アンケート回答の中には「目新しい提案はなかった」「すぐに実施できる対策メニューが少なかった」等のご意見もいただいていますが、満足度や対策メニューの実施(予定含む)状況を鑑みれば、受診事業所におけるCO2削減・節電対策 の取組みに役立っているという点 で一定の成果を得られています。
一方で、3年以内に 回収可能な対策メニューのうち、 未実施のものも多く残されてい て、その背景・原因(阻害要因)の 特定・分析や、解決策の検討も今 後の課題の一つといえます。
本事業の運営方法や診断により 得られたCO2削減ポテンシャルに 関するデータの展開方法など、課題となる点もありますが、本事業 で得られた成果をもとに、今後の 温暖化対策の優先順付けや支援施策を検討していくこととしていま す。
5排出削減ポテンシャルを最大限引き出すための方策検討会について
環境省は昨年度、「排出削減ポテンシャルを最大限引き出すための方策検討会」を設置し、阻害要因の分析と排出削減ポテンシャルの実現方策の検討会等を行いました。その結果概要は次の通りです。(一部のみ紹介)
<有用な情報の不足>
企業が省エネ設備・機器導入を検討するとき、カタログ等の情報だけでは、自らの工場・事業所に導入する際に見込まれる具体的な費用対効果を把握することができない。
<初期投資額の大きさに伴うリスク>
自社の予算規模に照らして多額の投資を要する省エネ設備・機器については、投資額そのものや、投資回収の不確実性の大きさに鑑み、投資リスクが大きいと判断されるケースが多い。
<経営層の温暖化対策への意識>
省エネ・CO2削減に対する経営層の姿勢が、省エネ設備・機器への投資判断を消極的にしているケースもある。この分析結果を踏まえ、日本が今後省エネルギー・CO2削減を進めていくうえで有効な対策としては、
a)工場・事業所への診断を通じた、具体的な情報提供の充実、
b)さまざまな業種・規模等における削減対策の事例収集と、情報の共有を通じて、個別の工場・事業所に削減対策を導入する場合の費用対効果を「見える化」するとともに、
c)補助金や利子補給、減税等の財政措置に加え、ローン・ギャランティ等による民間投融資の誘発、
d)省エネ投資に対するインセンティブづけ(認定制度等)、省エネルギー・CO2排出への規制(排出目標の設定等)
といった効果的な施策の導入・強化により、省エネ設備・機器への投資の魅力を高め、経営層の意識に働きかけていくことで投資を促進していくことが考えられます。(排出削減ポテンシャルを最大限引き出すための方策検討会http://www.env.go.jp/earth/er-potential/index.html)
事業者向けCO2削減のための自己診断事業ガイドライン (平成25年3月公表)
1目的
上述のCO2削減ポテンシャル診断支援事業の診断結果は診断を受診した事業所における温室効果ガス排出削減対策の取組みにおいて役立てられていますが、さらに、これらの診断により得られた知見を、受診されていない皆さまにもご活用いただけるよう作成したのが、このガイドラインです。
温室効果ガス排出削減対策を検討・実施するためには、まず事業所におけるエネルギーデータの取りまとめ、エネルギー使用状況に関する分析が必要となります。
そこで、本ガイドラインにおいては、事業所におけるエネルギー使用状況の把握方法を中心に解説し、さらに、インターネットを活用した具体的な対策技術の抽出方法についても紹介しています。
より詳細にエネルギー使用状況を把握するためには専門家診断を受診することが望ましいのは確かであるものの、まず、自社内で温室効果ガスの排出削減に取り組む第一歩を踏み出すための参考資料として、本ガイドラインをお役立てください。
2概要 『事業者向けCO2削減のためのガイドライン』
(1)CO2削減の取組みの意義温暖化対策メニューの実施状況
(2)エネルギー使用状況を把握するには(自己診断)
①自己診断と専門家診断
②自己診断の手順
事業所におけるエネルギー使用 状況の把握から対策立案、実施までの自己診断フロー
③対策メニューの体系
業務部門・産業部門における設 備ごとの主要対策メニュー
④活用ツール 簡易診断ツールについての紹介
(3)詳細な情報を把握するには(専門家診断)
①詳細把握・診断の流れ
②詳細なエネルギー使用状況の把握
③主要設備の保有・運用状況、 エネルギー使用量の把握事業者のためのCO2削減対策※サイト内「関連情報」欄に掲載しています。
中小企業地球温暖化対策推進ガイドライン(平成25年1月公表)
1目的
温室効果ガスの排出削減をさらに進めていくうえで、中小企業における対策の導入が大きな課題となっています。中小企業白書平成22年版によると、中小企業のエネルギー起源CO2排出量は日本全体のエネルギー起源CO2排出量の12.6%を占めますが、中小製造業のエネルギー投入率(生産額に占める燃料使用額と電力購入額の合計)は、平成2年以降16年まで概ね横ばいで17年以降も改善傾向は見られるものの大企業ほどの改善は見られません。
中小企業における対策実施が進まない理由としては人材や情報不足等が考えられますが、こうした状況を踏まえ、本ガイドラインは、これまで地球温暖化対策や省エネに取り組む機会が少なかった中小企業を対象に、事業所におけるエネルギーの測定や省エネ対策を実践していただくヒントを紹介することを目的として作成しました。
地球温暖化対策への取組みが企業における競争力向上にもつながるという視点で、実際にさまざまな対策を行っている企業の事例を用いながら、エネルギー計測や省エネの進め方を、いくつかのステップに沿って解説しています。
たとえば、ある企業では補助金に関する情報をこまめに収集し、短期間での補助金申請業務に取り組み補助金3,000万円を得て設備投資を行うことができました。
また、別のある企業では省エネ診断を受診し提案を受けた対策を実施した結果、電気代を年間100万円以上削減することができました。
本ガイドラインではこうした事例を豊富に紹介しつつ、中小企業の皆さんに使いやすいガイドラインとなるよう工夫しています。
エネルギー使用状況の把握、削減対策を進めていくきっかけとして本ガイドラインをご活用ください。
2概要『中小企業地球温暖化対策推進ガイドライン』
(1)企業力向上に地球温暖化対策を活かそう!
温暖化対策に取り組むメリットについて
(2)こうやって進めよう!
全体像
①進め方
②進めるコツ
(3)こうやって進めよう!
①現状を知る②削減対策・目標を考える③削減対策を実行する ④結果を把握分析する ⑤報告する⑥様式の活用ポイント
(4)もっと知りたい皆様のために温暖化対策関連の参考情報環境省ホームページ内「地球環境・国際環境協力」http://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-verification/index.html※サイト内「温室効果ガスの適切な算定・検証に向けて (ISO14064、ISO14065など)」に掲載しています。
温室効果ガス排出量の点検の手引き(平成25年1月公表)
1目的
地方公共団体の中には、いわゆる計画書制度などを導入することにより、大企業のみならず、中小企業におけるCO2削減対策に取り組むところがあります。
しかし、人手やノウハウ不足により報告書類のチェックや集計に多大な時間がかかり入手データの分析や施策への活用に至っていない等、地方公共団体ごとの制度運用において課題も多い状況です。
こうした状況を踏まえ、この手引きは、地方公共団体における計画書制度等の担当者を対象に、事業者より提出される温室効果ガス排出量報告書を点検する際のチェックポイントや実際に事業者へ訪問した際のヒアリングの流れ等をわかりやすく説明することを目的に作成されました。
3.の『中小企業地球温暖化対策推進ガイドライン』は、事業者におけるエネルギー使用量の把握・報告におけるガイドラインとして、本手引きは事業者の報告書を点検する際の手引きとして作成していますので、ガイドラインと手引きを合わせて活用されることによりエネルギー使用量の把握・報告・点検まで網羅することができます。
本手引きのチェックポイントがそのまま当てはまらない場合もありますが、状況に応じてご活用ください。
2概要『温室効果ガス排出量の点検の手引き』
(1)本手引きについて
(2)排出量報告値の点検におけるポイント
①排出量の報告に見られる間違いとその類型
②点検の方法とポイント
(3)事業所の訪問事業所訪問時のチェックポイント
(4)参考例:点検用チェックリスト 環境省ホームページ内「地球環境・国際環境協力」※サイト内「温室効果ガスの適切な算定・検証に向けて (ISO14064、ISO14065など)」に掲載しています。