【PM2.5緊急レポート】福岡県における大気汚染の実態とその対策


shoyama20150625

はじめに

2014年1月、中国北京で急激に増加した微小粒子状物質(PM2.5)は、その濃度の高さと日本への移流の懸念から、マスコミに大きく取り上げられ、大騒ぎになりました。福岡県は、中国大陸に近く大陸での大気汚染の影響をもっとも早く、強く受ける位置にあります。

黄砂のように、季節のうつろいや天気の変化によって、その影響を肌で感じる機会も多くあります。

2007年、福岡で光化学オキシダントの注意報が10年ぶりに発令され、その主な要因が中国大陸からの越境によるものであるとわかったことから1)、越境汚染への関心は高まってきていました。さらに2009年には、日本でPM2.5の環境基準が新たに設定され、その健康影響についても広く知られるようになりました。

このような中で、今回の中国での先の見通せない煙霧の状況がテレビ画面に映し出されたことは、多くの人を不安にさせています。

黄砂、硫酸塩などPM2.5を多く含んだ煙霧、光化学オキシダント、さらに酸性雨がその主なものです。

地球上の中緯度地域では偏西風が年間を通して吹いており、汚染質も基本的に西から東へ流れる場合が多く、夏に太平洋高気圧が張り出して南風が卓越しているときのほかは、大陸での大気はおおむね日本へ向かって流れてきていると考えられます。

とくに、春や秋の大気が安定している状態で汚染質が移流してきた場合は、濃度も高く、汚染の期間も長くなりますので注意が必要です。

ここでは、最近の大気汚染の広域移流による影響について、福岡県を中心にまとめてみました。

筆者:ECOLOGライター(岩本 真二)
(この記事は弊社発行媒体「環境パートナーズ(2014年3月号)」より再編集して掲載しています。)

 

 

1.大陸からの影響

(1)黄砂

黄砂は、昔から春の風物詩として見られており、大気汚染として捉えることはそれほどありませんでした。

しかし、近年、飛来の回数や規模の大きさが話題になり、しかも、その健康への影響が指摘されてきたこともあって注目を浴びるようになってきました。2km程度はなれた福岡タワーがぼんやりとなっており、気象台の観測ではこのときの視程は8kmです。

黄砂は、中国大陸中央部のモンゴルや中国内モンゴルにある砂漠地帯で発生した砂塵嵐が上空に上がり偏西風に乗って日本まで飛んでくるもので、中国国内の工業地帯を通過することによって、汚染質を取り込んでいるのではないかとの懸念もあります。

黄砂それ自身の健康影響も指摘されていますが、このような汚染質混在の黄砂についても、その影響を調べる必要があります。環境省が行っている黄砂解明実態調査2)では日本で観測された黄砂について、黄砂のみが飛来してきている単純黄砂、汚染質として硫酸塩エアロゾルを多く含む越境の煙霧、飛来途上でこの汚染質を含んでいる混在黄砂に分類する作業を行っています。

分類には、天気図、後方流跡線、世界気象資料による砂塵嵐の発生状況、シミュレーション予測のCFORS(九州大学・国立環境研究所)、ライダー観測での黄砂消散係数、PM2.5とSPMの比などが使われていますが、汚染質混在の判断には硫酸イオン濃度の上昇が大きな目安となっています。

現在、まだ排ガス対策が十分でない中国では、石炭などの使用により二酸化硫黄(SO2)が高濃度で、SO2の酸化によって生成される硫酸イオンの濃度も高くなっています。

福岡県では、大陸からの影響を見るために、硫酸イオンの時間値の測定を行っていますが、大陸からの影響があるときには、日本では通常見られないような20μg/m3以上の高濃度になることもめずらしくありません。硫酸イオンは汚染飛来を見るための一つの指標ですが、これと同時に、他の有害な化学物質などが飛来してきている可能性も十分考えられます。

この調査の結果では、2008~11年度に日本へ飛来してきた黄砂のうち、およそ半分は混在黄砂であった可能性があるとしています。

現在、黄砂の健康影響について環境省を中心に疫学的な調査が行われていますが、小児の喘息患者に影響が見られるような傾向も出ており、今後の研究の進展が待たれます。

 

(2)PM2.5

福岡で越境汚染による光化学オキシダントが問題になったとき、同時に、煙霧の越境による影響についても話題になりました1)。黄砂と同じように視程の悪化をもたらしていますが、黄色や褐色でなく白く濁る現象です。この現象は多くの人にとって、当初は春かすみのようなイメージで、煙霧がまさか越境によって飛来してきているとは思っていませんでした。

煙霧は福岡で年間33日観測されており、その回数は黄砂のおよそ4倍あります。しかし、黄砂とは異なり、煙霧の場合は前橋、東京などの関東地域と九州地域で多く観測されています。

これは、大きな発生源を持つ関東地方で発生する国内の煙霧と、大陸から飛来してくる越境の煙霧の両方が多いことを示しています。

今年1月の中国での深刻なスモッグ汚染と想像を絶するPM2.5の高濃度は、にわかに越境による煙霧とそれに伴うPM2.5の上昇について、マスコミを含めた多くの人の注目を浴びることになりました。

また、全国でのPM2.5の日平均値の分布では、福岡だけでなく、九州全体、中国地方まで広い地域で環境基準を超える高さになっています。このように、福岡においては煙霧の観測とPM2.5の上昇が同時に出現し、その大きな要因が中国大陸からの越境によるものであることは疑いのないものです。

日本では、2009年にPM2.5の環境基準が新たに制定されました。国内や米国での調査の結果から、短期曝露と循環器系の機能変化および・呼吸器症状・肺機能変化との関連に関する疫学的証拠が見られるとされ、環境基準値は1日平均値35μg/m3、年平均値15μg/m3となっています。

環境基準の制定を踏まえ、2010年から全国でPM2.5の常時監視が始まっていますが、2010年度の環境基準達成率は悪く、一般局で32.4%、自動車排ガス局で8.3%となっています。また、特徴的なことは、非達成になった局の2割は黄砂の影響とされていることです。

黄砂の中心粒径は4μm位といわれていますので2割程度のPM2.5も含んでおり、濃い黄砂が飛来したときに、当然PM2.5も上昇します。

一方、煙霧の場合はSPMの8割以上のPM2.5を含んでいるケースが多く、その観測回数の多さから、越境煙霧によるPM2.5の環境基準超過への影響はより大きいと推察されます。

PM2.5は、さまざまな発生源からのものになりますので、その内容も多くの成分を含んでいます。成分によって健康影響も異なりますし、また、成分濃度を知ることは発生源を推定する手段としても重要です。

したがって、環境基準設定に併せて自治体での成分濃度の把握も義務付けられています。

 

(3)光化学オキシダント

福岡県での2007年5月の光化学オキシダント注意報発令は、県民の光化学オキシダントへの強い関心を生み、越境汚染問題の重要性を認識させました。それ以前にも、黄砂や酸性雨など話題となってはいましたが、それほど切迫したものではありませんでした。

2007年度に4回、その後も2008年に2回、2011年に1回、継続して発令されています。発令回数はそれほど増えているわけではありませんが、近年の上昇傾向は今後も続くと思われ、十分な警戒が必要です。

 

2.越境汚染対策

(1)福岡市の黄砂・PM2.5予測体制(4

2011年、福岡市は、黄砂に対して市民の関心も高く、問合せも多いことから、「黄砂影響検討委員会」を立ち上げました。その中で、市民へのアンケート調査や予測モデルの検討などが行われ、黄砂の予測とその情報提供が決められました。

具体的には、気象庁の予測シミュレーションモデルMASINGARを使い、当日、翌日、翌々日の黄砂濃度100μg/m3以上 (視程10~6km)と400μg/m3以上(視程5km以下)を毎日6時に予測し、マスコミやメールを通して情報提供を行うようになっています。

この年の検討会の中で、越境汚染という観点から、黄砂とともに煙霧も問題であるとの指摘があり、2012年度には煙霧についての検討が引き続き行われました。煙霧は、その内容からPM2.5による汚染として予測や健康影響が検討されています。

PM2.5の予測については、当初、黄砂と同じように予測シミュレーションモデルで検討されましたが、日平均値の環境基準超過を事前に正確に的中させることは難しいとの結論に至り、実測値を使った予測を使用することになっています。

過去のデータの解析によると、PM2.5の高濃度は比較的広域に長い時間続くケースが多いことから、朝の時間帯の濃度が日平均値と相関がよいことがわかりました。

一方、環境省では、今年1月の中国におけるPM2.5高濃度を受けて、「微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合」が急遽召集され、PM2.5高濃度時における対処について検討が行われました。

その内容は、日平均値70μg/m3で、福岡市と同じように朝の時間帯における濃度(85μg/m3)により、注 意喚起を促すと決定されています5)。

 

(2)福岡県でのアジアとの国際協力事業

福岡県では、2007年に中国からの越境を主な要因として起きた光化学オキシダントの注意報発令を契機に、この問題を解決するためには、国際協力が重要であるとの認識を持つようになっています。

2008年11月に初めて、国際環境協力フォーラムを開催したのに続き、毎年、同様の会合を開催しています。それぞれの議題は次のとおりですが、東アジアの関係者を集め、各国の状況を知り、お互いの情報を共有する貴重な場となっています。

***
第1回:2008年11月「東アジアにおける国際協力―国境を越えた環境汚染対策について」
第2回:2009年11月「東アジアにおける国際協力のルール作り」
第3回:2010年11月「国際環境協力ネットワークの形成に向けて」
第4回:2012年1月「日中自治体間環境協力と環境ビジネス交流の発展を目指して」
第5回:2012年11月「日本とアセアン・インド自治体の環境協力推進と今後の環境ビジネス交流に向けて」
***

 

まとめ

黄砂、PM2.5、オキシダントは、国内汚染対策だけでなく、越境による汚染についても対策が必要になってきます。

しかし、越境汚染への対策を行うことは容易ではありません。国際間の交渉を中心として進めなければならないからです。

国内であれば、法律を作りその施行に向けて腐心すれば何らかの成果をあげていくことはできますが、国家間の問題は、まず事態・問題の認識を共有することから始めなければなりません。

これに加えて、ほかの政治の問題が絡むと一層やっかいです。越境汚染対策は、一義的には国家間の問題として、政府が扱うべきものです。

日中韓3カ国環境大臣会合(TEMM)での合意を踏まえ、3カ国による越境大気汚染業務が、黄砂を中心に進んできています。

今年1月中国に起きた深刻なPM2.5汚染とその越境による周辺国への影響は、このような共同作業をより強固に進めなければならない事態であることを示しています。

環境問題は、まず当該国で解決されるべき課題ですし、それを要求するのは当然のことですが、それだけではうまく進んでいきません。

声高に要求を突きつけるだけでは、一時的に溜飲を下げるだけになってしまい、かえって事態を難しくします。

協力体制の構築と、粘り強い交渉が必要です。過去の環境問題を多方面の力を結集して解決してきた日本では、地方を含めまだまだ多くの人材を持っています。

また、地方では姉妹都市など独自のつながりを持った所も少なくありません。そのつながりを活かして、防止技術などのビジネスレベルや科学者同士の現状認識の共有など、やるべきこと、やれることは少なくないと思います。

 

―参考文献―
1)岩本真二他;福岡県における光化学オキシダントの高濃度要因の分類、大気環境学会誌、433、p.173~179、2008
2)環境省;黄砂実態解明中間報告書―平成20~22年度―、p.133、2012
3)国立環境研究所・地方環境研究所 II型共同研究;PM2.5と光化学オキシダントの実態解明と発生源寄与評価に関する研究、九州地域基本解析 (2013)より
4)福岡市黄砂影響検討委員会;福岡市ホームページ(http://www.city.fukuoka.lg.jp/kankyo/k-hozen/hp/fukuokashikousakentouiinkai.html) (2013)
5)環境省微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合;最近の微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染への対応、p.7、2013

 

 

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